第3話:ようやく誕生したサッカー部 


 

第3話:ようやく誕生したサッカー部

「先生! こんな練習つまらないです!」

引き続き、ストーリーをお読み頂き、ありがとうございます。^^

今回は、第2話に続いて、ススムが、がんばって作ったサッカー部の話です。


<<前回までのあらすじ>>

ススムは、数少ない男子生徒たちに頼まれ、サッカー部設立を職員会議で提案する。
ベテラン教師の反対に会い、苦労するも、ススムの熱意が通り、会議で認めてもらうのである。


いよいよ、期待に胸弾ませ、初練習の日が来た。

ススムは、晴れやかな面持ちだった。苦心の末、念願のサッカー部を職員会議で、認めてもらったからである。



職員会議後の初めての火曜日が来た。

今日は、サッカー部の初練習の日だ。

(学校の取り決めで、サッカー部の練習日は、火、木、土の週3日となった。
校庭で毎日行なうことが出来ない、他の複数の運動部の練習日数に合わせたのである。
学校外のグランドでできるサッカー部は、毎日出来るのだが、それでは、不公平である
と判断されたからである。)

放課後になり、ススムは、ジャージに着替え、校門前で、サッカー部員が集まるのを待った。

「先生! 早いですね! もう来てたのですか?」とマコトが嬉しそうに言った。

ススムも同じように、ニコニコして、言った。

「ああー、待ちきれなかったんだ。だって、サッカー部の練習初日だからね。当然、気合も入るよ。」

集合時間が来た。男子部員、総勢6名、全員そろった。ススムは、生徒たちを従え、走り出した。本当は、生徒を先頭にして、走りたかったのだが、練習グランドに行くのが初めてだったので、やむを得ず、道を知っているススムが生徒たちを引っ張った。

10分ほどが過ぎた。すると、ススムの後ろを走っていたマコトがススムに向かって、
言った。

「先生! 吉田が追いついていません。
少し、走るスピード、落としてくれますか?」

ススムは、その言葉に驚いた。


(えっ、このスピードについて来れないんだ。

そんな速く走っていないのに。
そうか、これまで、ろくに運動もせずに
来たから、体力がないのか...。)

そんなことを考えながら、スピードを緩め、吉田が追いつくのを待った。

結局、練習グランドに着いたのは、予定の時間を20分も過ぎていた。

(職員会議で、認めてもらった時間は、20分以内の場所だったのに。)

ようやく、男子部員全員が、練習グランドについた時、彼らの多くが、呼吸が荒く、しんどそうにしていた。

ススムは思った。

(こんなんで、本当に
みんなサッカーができるのだろうか?)


サッカー部の部員達に体力を付けさせないと考え、走らせることにするのだが、、、

サッカー部が誕生して、1ヶ月が過ぎた。

ススムは、少し焦っていた。確かに、生徒たちとボールを蹴ることは、楽しい。でも、部員たちは体力が如何せん、なさ過ぎる。練習グランドまでのランニングが、体力つくりには悪くないが、それでも、サッカーをやるにはそのランニングだけでは、足りない。

サッカーの試合は、前半、後半合わせて80分(高校の場合)である。走りながら、ボールを蹴りコントロールする。それは、かなりの体力を必要とするのだ。

もちろん、レクリエーションとして、つまり、単なる遊びとしてなら、構わないが、仮にも学校の運動部としての活動である。ただ、楽しければいい、というのでは、クラブとして続くことは、あり得ない。

試合に出て、勝ち負けを競い、そこから、本当のスポーツの楽しさを知ることができる。

そうススムは考えていた。もちろん、部員たちも同じ気持ちだった。

(運動部の経験されている方ならわかるのではないかと思います。スポーツの楽しさって、ある程度うまく出来ないと、わからないですよね。うまく出来るから、楽しくなる。うまく出来ないものは、やることが楽しくなくなり、止めたくなる。あなたは、いかがですか?)



ススムは、未経験者の多いサッカー部の部員に、今必要なのは、基礎体力ではないかと。

そこで、ススムは、彼らを徹底的に走らせることにした。練習グランドに着くと、練習時間のほとんどを走ることに費やしたのである。グランドの周りをひたすら走らせた。

鬼軍曹のように、振る舞ったわけではない。ススムは生徒たちに、ニコニコ笑顔を見せながら、
こう説明したのである。

「みんなに訊きたいだけど、
サッカーが好きなんだよね?サッカーの試合で勝ちたいんだよね?

ならば、サッカー選手として一番必要なものは何だと思う?そう、技術と体力だよね。それが備わって、初めて、チームとしての戦術を考えることが出来るわけだよね。

ここにいる部員の何人かは、この練習グランドに走ってくるのにも、結構、大変そうにしていると
思うんだ。

決して、責めてはいないよ。だって、これまで、そんなに運動をしてなかったわけだしね。

でも、僕の言いたいことは、きっとわかってもらえたと思うんだ。

ということで、練習の一環として、今日から、たくさん走ってもらうよ。もちろん、その後は、ボールを使った練習をやるよ。OK?」

ススムは、熱心に、しかし、一方的に、部員たちに話した。

「はい!わかりました。」(部員全員)

そう、生徒たちは言うと、ウォームアップの後、ススムの指示通りに、グランドの周りを走った。生徒たちが、一生懸命走っている姿を見ながら、ススムは、


(生徒たちには、こんな楽しくない練習で

済まないが、今は仕方がない)

と、思った。

(運動部の指導は、コーチなどの経験のある方なら、おわかりですよね。目標のために、何をやる必要があるのか、それを練習メニューに取り入れて、実行していく難しさ。

コーチの自己満足に陥ってはいけないし、さりとて、選手の主張ばかりを聞いていたら、効果のある練習はできなし、、、

まして、団体競技の場合は、チーム全員の意思統一も必要になるし…。

サッカーの経験はあっても、コーチの経験は、皆無であったススムには、どう指導するかは、大いなる悩みであった。

(現代なら、コーチ指導の方法は、かなり確立されていて、その方法を情報として得ることは、簡単ですが、当時は、前近代的な練習方法しかなく、また、コーチの選手時代の経験を応用するしかない時代でした。

例えば、練習中や試合中に、水を飲むことは、禁じられていましたし、筋力を鍛えるのに、今では否定されているウサギ跳びが、奨励されてもいました。

言ってみれば、精神論が重視されていたのです。なので、指導される方は、たまったものではありません。私も、コーチとして、非科学的な指導を行なっていたことがありました。
当時の選手たちには、申し訳ないと思っています。)


部員たちが練習を休んだ!その理由を探ると、ススムは驚くのであった。

今日は、月1度の恵まれた土曜日。

借りることの出来るグランドは、普段は、単なる、広々とした空き地のような場所なのだが、月に一回だけ、いわゆるサッカーコート(ゴールが設置されている)を使用させてもらえるのだ。

なので、ゴールを使って、シュート練習が出来る。言ってみれば、サッカーらしい練習がやれる。いつもは、走ることと、基本のキックの練習ばかりなので、

(部員たちは、
きっと楽しみしているはずだ。)

そんなことを思って、いつのもように、放課後、グランドに向かうべく、校門で、部員たちを
ススムは待っていた。

すると、なんだか、元気のない様子のマコトが言った。

「先生、今日は、部員は
3人しか、来ません。吉田と、サトシと、林は休みです。理由は、わかりません。」

ススムは、それを聞いて、しばし、絶句したが、なんとか、気を取り直して、言った。

「でも、今日は、サッカーコートが使える日
だよね。シュート練習のメニューも考えてあるのに…。」



ススムと3人の部員は元気の出ないまま、サッカーコートに向かった。彼らの走る姿は、どう見ても、サッカー選手というより、当てのない道を、たださまよい走っている若者たちの姿であった。

それでも、サッカーコートにたどり着くと、3人の選手たちは、ススムの考えたシュート練習を楽しそうにやった。

ススムが、ボールを角度や高さを様々に変えながら、パスとして、選手たちの前に蹴り、それを、彼らがシュートするのである。ススムは、現役の時、ポジションとして、中盤のパスを出す、司令塔をやっていたので、こういうパス出しは得意だった。

(スポーツでも、バンド活動でもそうですが、私の性格は目立つことより、支える位置にいる方が楽しいので、バンドでは、ベースだったり、サッカーでは、ゴールを決めるフォワードよりも中盤の位置が好きでした。あなたは、どんなポジションが好きですか?)

人数は少なかったが、かろうじて、サッカーらしい練習を、最後までやることが出来た。

でも、ススムの心は、その場にいない3人の部員のことばかり考えていた。



練習から、学校に戻るとススムは、校舎の中を歩いた。ある直感が働いたからだ。3階に行こうと階段を上がると、踊り場に、サッカー部の練習を休んだ3人が、所在なさげに立っていた。ススムは、すぐに声をかけた。

「よう! 今日はどうしたんだい?サッカーコートでの練習だったから、ボールを使って、シュート練習とかやったんだよ。来ていたら、楽しかったと思うよ。なんちゃって。」

3人は、ススムのその言葉を聞き終わる前に、頭を下げて、その場から、足早に消えたのである。
どの顔も、暗い表情だった。

ススムは、どうしてよいかすぐには答えが見つからなかった。とりあえず、考えたことは、部員たち全員を集めてミーティングをすることであった。

その翌週の月曜日、放課後部員全員を、1年D組の教室に集めた。

(集めたというより、彼らの教室なので、そこに残っていてもらったというのが、正しいのだが。)

ススムは、英語の授業以外で、D組の教室に入るのは初めてだった。

突然、ススムは思った。いつも練習のことばかり考えていて、ちっとも彼らと面と向かって、話したことはなかったと。

今日はどうやって彼らと話をしたらいいんだ、そう思うと、ススムの心に緊張が走った。

とにかく、教室の扉を、勢いよく、開けた。そこには、

部員全員が、静かに椅子に座っていた。

ミーティングは、ススムの主導で始まった。その後も、ススムは、熱心に話し続けた。

サッカー選手として、何が必要なのかを、チームとして、何が求められているかを。と言って、いつもススムが部員たちに話している内容と代わり映えしなかった。

「サッカーは、団体スポーツだけど、
それぞれの選手が、基本の技術と体力がないと、始まらない。だから、今は、みんなのほとんどは初心者なので、我慢して基礎練習を続けることと、走って体力をつけてもらわなければいけないんだ。」

気がつくと、部員はみんな下を向いていた。慌てて、ススムは言った。

「ごめん、ごめん。
つい夢中になって、一方的に話してしまった。どうしても、部活動を盛り上げたいと思う気持ちが強くなってしまって…。

せっかくだから、一人一人の気持ちを聞かせてよ。」

しばらく、待ったが誰も発言しなかった。やむを得ず、ススムは指名した。

「じゃあ、林はどう思っているんだい?」

下を向いていた林は、なかなか顔を上げなかったが、何かに突き動かされたかのように、真剣な顔つきで、話し出した。

「ススム先生が、サッカー部を
僕たちのために、作ってくれたことは嬉しかったし、感謝しています。

でも、、、
練習が始まったら、先生は自分だけが楽しんでいるように見えるんです。確かに、先生は、サッカーをやってきたから、僕たちよりうまいし、一生懸命、教えてくれるのはわかるけど、

でも、学校から、練習グランドまで
走るのは、きついし、グランドについても、また走ってばかり
ボールを使った練習だって、基本のキックをやらされるから正直、サッカーをやっている感じがしないんです。

もっと、楽しくサッカーがしたいんです。つまらない練習は、もうしたくないんです。」

ススムは、林の話を聞いて驚いていた。さらに、林は、もっと驚くことを言った。

「僕は、サッカー部を辞めようか、
悩んでます。」

ススムは、愕然とした。他の部員たちにも勇気を出して、ススムは訊いた。サッカー部を辞めようかと悩むことはあったが、今は、続けたいと言ってくれた。やっぱり、サッカーがうまくなりたい、大会に出たい、そんなことを、残りの部員はススムに伝えた。

どんよりとした空気の中、サッカー部のミーティングは終わった。ススムは、彼らより先に教室を出た。後ろ手で、教室の扉を閉めた。その閉まる音は、悲しい響きに聞こえた。

「サッカー部を辞めようか、悩んでいるんです。」

その言葉が、ススムの頭の中で、いつまでも
巡っていた。


悩みに悩んで、ようやく、ススムは何が大事なのか、気づくのである。

失意のどん底

そんな言葉は、ススムが思うのは早い。なぜなら、ススムはサッカー部については、まだ何も成し遂げていないのだから。

ただ、生徒のために、力を尽くしたいと思って、一生懸命にやっていたのに、逆に、自分がやっていることで、生徒を悩ませていたなんて、

ショックだった。

サッカー部のミーティングの後、帰宅し、一人自分の部屋に入り、ススムは、考えに考えた。いや、ススムも部員たち同様に悩んでいた。どうしたらいいのだろうと。気がつくと、朝になっていた。朝食を食べる気持ちも湧かず、スーツに着替え、家を出た。


学校に着いたが、まだ6時半だった。当然、校門は閉まっている。ススムは、早すぎたな
と思うこともなく、学校に入ることを諦めて、学校の近辺を歩き出した。
(始業時間は8時半だった。)

ススムの頭の中は、ずっと、サッカー部員のことだった。

(私は、学生時代から何かに悩みだすと、答えが出るまで考えを止めないタイプでした。一度考えだしたら、いつまでも考えてました。答えが出せないのは、嫌でした。よく言えば、粘り強い、と言えるでしょうw
でも、粘り強く考える癖は、自分の思考力を高めてくれたと思います。)

考えに夢中になっていたススムは、いつの間にか、学校近くにあった公園のベンチに座っていた。ススムは、自分がベンチに座っていることも、わかっていなかった。

さすがにススムは気持ち悪くなってきた。あまりにも考え過ぎて、胸のあたりが、ゾワゾワしていた。

と、その時、遠くから学校の鐘の音が聞こえた。始業のベルの音だった。

(わっ! 大変だ! 遅刻だ!)

ススムは、時間が経つもの忘れていたのである。慌てて、ベンチから立ち上がって、学校に向かおうとした時、

突然、閃光のように、ある考えがひらめいた。

(そうか! こうやって、一人で考えているからいけないんだ!今自分が考えていることは、自分のことじゃない。生徒のことだ。生徒と話をしないと。生徒の気持ちを訊かないと。生徒一人一人と時間をかけて話をしないと。

僕は、全然、対話していなかったんだ。今は、考える時じゃない、話をする時だ。)

ようやく答えが出たススムの目の前に、広がっていた光景は、大きな公園だった。

(あれ! こんなにところに公園があったんだ!こんなに学校に近いところに!

ここで、サッカー部の練習が出来るぞ!)

その公園は、学校から、走らなくても、歩いて10分ほどの距離にあった。しかも、金網で囲まれているスペースもあったので、ボールが外に飛び出してしまうこともない。絶好の公園だった。

こうして、この公園を練習場所に替え、生徒たちは、20分以上走って行かねばならない大変さから開放された。

また、練習メニューも変え、公園での練習は、ボールを使った練習を中心にし、走る練習は、部活のない日に自主練で、校舎の周りを部員がそれぞれ走ることとした。

(但し、そのランニングは、練習ではない単なる体力作りで、生徒がそれぞれ、自分たちの意志で、走っていることにした。でないと、ルール違反だと、学校に詰問されてしまうから。特に、体育科の小橋先生にw)

それから、、、

ススムは、練習があるときは、この公園で、または、放課後教室で、必ず部員たちと一人一人と話をするようになった。そして、ススムは、自分の思いよりも部員たちの気持ちを優先するようになった。

公園で、練習する彼らに笑顔が戻った。

この時の経験がきっかけとなり、ススムをある方向に向かわせるのであった。

それは、人の心をどう理解したらよいのかということであった。つまり、心理学を学ぶことが必要であると、考えるようになった。その後、ススムは、教育研究所に通いカウンセリングを、初歩から学び始めるのである。)




<<次回予告>>

新設されたサッカー部も何とか軌道に乗りつつあったが、サッカー部ばかりに時間をとるわけにはいかなかった。ススムは、新たに文化祭(後夜祭)の担当になったのである。

つづく


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