第10話:生きてくれていて、ありがとう! 「私、首の骨折っちゃったの。」

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第10話:生きてくれていて、ありがとう!
「私、首の骨、折っちゃったの。」

前回も書きましたが、私は、教師としては、とても順調に、自分の人生を進めることが出来ました。

でも、プライベートでは、傍目から見たら、おいおい、しっかりしてくれよ、という感じだったと思います。

仕事オンリーで、恋愛には、全く縁遠い生活を送っていたからです。大人の男として、彼女がいたっておかしくないですよね。でも、そういうことには、疎い私でした。

そんな情けないプライベートの生活でしたが、カナとの出逢いによって、大きく花が咲いたように、ルンルンと浮かれるようになったのです。

そんな話の続きです。

<<前回までのあらすじ>>

ススムは、ひとり暮らしの寂しさから、夜の店に行き、そこで出逢ったホステスのカナと仲良くなった。そして、二人は、恋人同士になった。ただ、彼女には、人には言えない辛い事情があった。不治の病を抱えていたのだ。そのカナを支えようと、ススムは、カナの店に通うことを決心する。


カナはまるで天使のような慈愛を、ススムに教えるのである。

ススムは、一睡もせずに考えた。

一緒に住むことを提案した。でも、カナは、同意はしてくれなかった。自分の生活を変えることはすぐには出来ない、辛くても、人に頼らず、夜の店で頑張って働きたいと。

ススムはカナのその強い意思を知り、やむを得ず、こう伝えた。

カナを支えるために、客として、カナの働く店に行く、

何も気にすることはない、これからは、自分が店に行き、そばにいてあげると。

(二人のギクシャクした気持ちが交錯したが、ススムがカナに折れた形となった。)

電話を切ったあと、改めて、ススムは心に誓った。

(これでいいんだ。今はこうするしかない。とにかく、どんな形でも、そばにいて、カナを支えよう。)

そう強く自分に言い聞かせ、本來やるべきことを思い出し、スーツに着替え、仕事に出かけた。でも、心なしか、気持ちは高揚していた。今、自分には、大切な女性(ひと)がいるんだという高揚感だった。



数日後、仕事が終わると、ススムは約束通り、カナに会うために、店に行った。行く場所が場所(夜の店のクラブ)とは言え、やっぱり、気持ちは高ぶっていた。

(なぜって、この間、キスした相手に会いに行くんですよ。そりゃ、落ちついてなんか、いられませんw

あなたは、どんな楽しい経験をお持ちですか?異性を好きになるって、楽しいですよね♪)

ススムは、カナのいる店に入った。しかし、カナは他の男性客の相手をしていた。

ススムは、どんな男性客として、話しているのか、気になって、落ち着かなかった。

(当たり前のことですが、彼女には、指名してくる男性客がいます。私が言うのもなんですが、とてもキレイで、愛想よく話が出来るので、お店のNo.1のキャストだったのです。

なので、嫉妬心が強いと、ちょっと耐えられないと、思います。でも、私は、彼女を支えるために、いるので、一切、気にしないようになりました。いや、そう出来るように、心が強くなりましたw)

カナが、10分ほどすると、ススムの席に現れた。ニコニコしていたが、顔色は良くなかった。

「この間は、遅くに会ってくれて、ありがとう。それから、電話も嬉しかった。」

そう言うと、カナはウイスキーの水割りを、ススムのために作った。

3つほど、大きめのアイスをグラスに入れ、それをマドラーでかき回し、そこに、ウイスキーをシングルの量で入れ、ミネラルウォーターを注ぎ、ゆっくりとマドラーでかき回した。そのグラスの周りを丁寧におしぼりで拭き、静かにコースターの上に載せた。

その動きは、手慣れていたが、ススムは、それを見て、やっぱり、プロだなと思った。その所作が、自然で、さりげなかった。

でも、そんな上手さは、正直、見たくないとも、思ってしまった。本当は、その器用さを、こういう店でなく、僕の家で、見せてほしいと、ススムは、心の中で思った。

ススムは、その水割りを飲みながら、ごく普通の会話を始めた。

「この間、DVDで、’太陽がいっぱい’、見たんだ。面白かったよ。」

「アラン・ドロンの映画でしょ。カナも見てみたいと思ってたんだ。今度、私も借りて見てみるね。」

「そうなんだ。やっぱ、アラン・ドロンは、かっこいいよね。」

「うん、そうそう、今度、エイリアン、上映されるんだけど、一緒に、見に行かない?」

「えっ、いいけど、あれって、SF映画だけど、ちょっとグロいやつだよね。」

「たぶん、でも、私、グロいの好きだしw」

「そうなんだ、、、(*_*; w」

他愛のない話だが、これでいいと、ススムは思っていた。自分がいる間は、カナの心が少しでも、安らげばいい。そんな気持ちで、ススムは、カナの横に座っていた。

それに、ススム自身も、カナの見せる笑顔と屈託のない笑い声に癒やされていたのだ。

時間はあっという間に過ぎた。もっと一緒にいたい、でも、ここは、カフェでも、パブでもなかった。限られた時間の中で、逢瀬

ススムは、カナに逢うようになって、わずかな時間でも、一緒にいられることに幸せを感じるべきだ。時間の長さなど問題ではない。そんな風に考えるようになっていった。



(私は、カナに出会ってから、その優しさに触れ、なんて素敵な女性なんだと思うようになっていました。その思いを膨らませてくれたエピソードがあります。)

<エピソードその1>

ある日のこと、ススムは、少しイライラしていた。

昼間、学校で一人の生徒を怒ってしまった。掃除をサボったからだった。

また、生徒の扱いについて、一人の教師とぶつかってしまった。推薦入試を合格したが、その男子生徒を、喫煙の疑いで、学校推薦を取り消すべきだと、言ってきた教師と口論になったのだった。

そんなことが重なり、イライラしていたのだ。

(社会人として仕事をしていると、忙しかったり、疲れていたりすると、感情をコントロールすることが難しい時がありますよね。)

でも、強めに生徒を怒ったことや、同僚に声を荒げたことを、ススムは後悔していた。もう少し、言い方があったのではないかと。

この日は、ススムは、酔いに任せて、その時のことを話し、カナに、自分の感情を見せた。

すると、カナは、すかさず、こう言った。

「ススムさん、怒っちゃだめ。絶対に、何があっても、怒っちゃだめ。」

カナは、その言葉を真顔で、理由を言うわけでもなく、繰り返すのだった。

(カナは、私は、どんなときでも、怒りの感情を人にぶつけるのは、よくないと、言いたかったのだ思います。)

その真剣さに、何も言い返せなかったが、その言い方が、ススムには、まるで天使のような声に聞こえたのだ。

<エピソードその2>

ある時、カナが足を痛そうにしていたので、例の病気のことかと思い、心配して、ススムが

「どうしたの?大丈夫?」と訊くと、

「うん、ちょっと痛いけど、大丈夫。素足にサンダル履きで、混んだ電車に乗ったから、ハイヒールを履いた女の人に、踏まれちゃった。で、ヒールが見事に、わたしの足の甲にのかって、それで、血が出ちゃったw」

と、痛いはずなのに、笑みを浮かべて、カナは話した。

「だけど、悪いのは、その女性じゃない?その女性は謝った?」

ススムは、誰とも知らない女性を勝手に思い浮かべて、その相手にムッとした。

「ううん、悪いのは、私だから。いいの、私が我慢すれば、いいんだから。」

こんなことを言って、ススムを驚かせた。

このように、人を決して責めない話を聞くたびに、ススムは、カナは、どれだけ心根の優しい人なんだろうと、思わずにはいられなかった。

そして、ススムは、こうも思った。なんて人間性が高い人なんだ、僕も見習わないと。

(それに、カナは、難病を抱えていて、家庭でも、あまり恵まれているとは言えない境遇なのに、自分のことより、いつも人の心配ばかりしていました。

本当に、私は、カナの心に触れるたびに、畏敬の念を持ちました。)

(当時、なぜそんなに人に優しいのか。自分のことより、人のことばかり、心配するのか。不思議でした。

今、改めて、カナのことを考えると、
カナは、自分の苦しみ、痛み、悲しさ、辛さを抱えて生きていました。

なので、人の苦しみや、辛さなど、敏感に感じ取れるのです。そういう人を見ると、優しくなれるのです。共感性が高いとも言えます。

また、自分が嫌な経験をすると、そのことを生かし、相手の人に自分と同じような嫌なを思いをしないように気をつけるのです。

カナは、そんな経験を家で小さい頃からしていました。特に、父親から、ひどい扱いを受けていたのです。

そんな苦労人であるカナだからこそ、高い人間性を持てたのだと思います。

さらに、そんな辛さを抱えていても、我慢することを覚え、人に尽くすことで、その辛さをわすれるとことが出来たとも思います。

私は、今振り返っても、こんな素晴らしい人に出会えて、幸せだったと思います。)


どんどんと気持ちは膨らみ、ススムにとって、カナはかけがえのない女性になる。

ススム、どんどんと、カナへの気持ちを膨らませていった。

まあ、普通に言えば、好きで好きでしようがなくなったのである。♪

(多分、僕たちの相性はとてもいい、、、一緒にいて、楽しいし、互いを尊重し合えている。)

そんなことを考えながら、一人ニヤケ顔で、帰路につく電車に乗っていた。

そんなところを、生徒に見られたら、笑われただろう。

自宅のマンションにたどり着くと、エレベーターに乗り、5階まで上がった。エレベーターホールのすぐに横に、ススムが住む部屋があった。

エレベーターから降りれば、すぐに自分の部屋の扉が見える。

今日は、その扉のドアノブに、何やら、白い袋がぶら下がっていた。

(何だ、あれは?)

そう思いながら、恐る恐る、その白い物体に近づいた。

よく見てみると、スーパーのプラスチック袋だった。

(中に、何やら入っているぞ。)

怖かったが、手を入れ、中の物を確かめながら、ゆっくりと取り出した。

20センチくらいの箱状の物が新聞紙に包まれて出てきた。少し、暖かった。

(今の時代では、きっと考えられないですよね。新聞紙を包装に使うなんて。)

手にした瞬間、ススムは、直感でわかった。それが弁当箱だと。そして、それと一緒に、キレイな便箋が一枚出てきた。

(ススムさん、お仕事、お疲れ様。お弁当作ったから、夕飯に食べてね。私の得意は、だし巻きたまご、もちろん、中に入っているよ。頑張って作ったから、今度会った時に、感想聞かせてね。

あなたのカナより。)

ススムは、その新聞紙の包を、両手で持ちながら、部屋にも入らず、玄関前で、泣いた。

もちろん、嬉しかった気持ちがあるが、あんなに体調悪いのに、出かけるといっても、仕事場か病院に行くのが精一杯な身体なのに、その健気さに、泣いたのである。

ふと、ススムは気づいた。この弁当箱の暖かさなら、まだ来たばかりだと。

(今は、どこにいるのだろう?ちゃんと帰れるだろうか?)

心配になり、携帯をかけたが、カナは出なかった。落ち着いて、ススムは考えてみた。

(そうだ、カナは、自分の車を持っていたっけ。きっと、それに乗って来たんだ。まだもう少し元気だった頃は、よく気分転換に一人でドライブするって言ってたっけ。

そうそう、もう一つ思い出した。カナは愛車はマツダの真っ赤なロードスター・ハードトップだった。きっと、カナには、似合うだろうな♪

出勤した頃に、もう一度電話してみよう。)

ススムは、再度電話したが、カナは出なかった。ススムは、一言、留守電メッセージを入れた。

「カナちゃん、お弁当ありがとう!」


ススムは、新聞紙の包から、可愛い弁当箱を出し、テーブルに置いた。しばらく、その箱を眺め、そっと、蓋を開けた。

中には、白いご飯と一緒に鶏団子、ほうれん草のおひたし、それと、だし巻きたまごが、キレイに並んでいた。

危うく、涙が、その上にこぼれ落ちるところだった。

ススムは、思いがあふれ、一生懸命、涙とともに、食べた。

カナは、その後も、まれにだったが、出勤前に、弁当を作って、マンションまで、持ってきてくれた。その時は、その弁当を食べて、ススムは、カナの店に行くのであった。

(店では流石に手渡すことは出来ないし、弁当が温かい内にというカナの気遣いだった。)

(本当は、自分がいる時に来て、手渡して欲しかったけど、互いの時間が合わないのは、しようがないと、諦めていた。)

そんなある日、ススムが帰宅すると、玄関前にカナが立っていた。

(ヨッシャー!)

「あれ、帰ってきたの。お疲れ様。今日は、ちょっと時間かかっちゃって、持ってくるのが遅くなちゃった。」

(そんなことを言わなくて、いいよ。もう無理しなくていいよ。)

そんなことを思いながら、ススムは、言った。

「ありがとうね。身体の方は大丈夫?少し、中に入って、休んでいきなよ。」

ちょっと、ドキドキしながら、扉を開けて、カナを中に入れた。カナが、ススムの部屋に入るのは、初めてだった。

「うん、じゃあ、ちょっとだけ。お邪魔しま~す♪うわー、素敵な部屋!」

1DKの部屋で、玄関を入ると、手前にダイニングキッチンがあり、奥に寝室があった。

「いいわね。私も、こんな部屋に一人暮らししたいな。

といって、こんな身体じゃ無理だけどねw」

カナは、無邪気にススムのベッドに座り、楽しそうにしていた。

「少し、休んだら、お店に行くね。でも、ちょっとだけ、今日は遅刻して行こうかな。だって、せっかく、ススムさんの部屋に入れたんだから。」

そう言ったきり、いつの間にか、ススムのベッドの上で横になり、しずかな寝息を立てていた。

ススムは、そっと横になっているカナに、ブランケットをかけようとした。

と、その時、そのススムの手を、寝ていはずのカナが握り、自分の方へと引っ張った。

ベッドの中で、二人は、ようやくひとつになれた。

カナの体は、柔らかく、肌はまるで絹のように滑やかだった。

そのカナを愛しく、ススムは、抱いたのだった。

(ここまで、書くなんてちょっと、調子に乗っていますよねw

でも、本当に天国に昇るような気持ちの良さが、全身を駆け抜けしました^^;)


早朝から電話。カナの弟が出た後、カナが替わって、こう言った。「私、首の骨、折っちゃったの。」


カナとススムは、制約がある中で、自分たちになりに、幸せな時間を送っていた。

(カナの店以外で会えるのは、カナの体調の良いときと、ススムの仕事が比較的少ないときにしか会えなかった。自由に会えるのは、月に1回あるかないかだった。)

こんな風に、、、(のろけますw)

✤カナは、ススムと二人でいるときは、ススムの腕の中に、自分の腕を入れ、ぴったりと離れない。

✤カナが、ススムの家に来るときは、部屋に入ると必ず息を切らしている。♥「早く逢いたいから、駆けってきた♪」(カナの独特の表現:「走る」を「駆ける」と言います。^^)

✤ススムは恥ずかしいのに、女性の下着売り場に行き、♥「どれがいい?」と大きな声でススムに訊いてくるw

✤デパートの雑貨屋に行くと、ススムの友人(女性)のためにと、一生懸命にプレゼントを探し、すぐにススムのその友人に、電話をススムはかけさせられ、♥「今、とっても素敵なプレゼントを、まりこさんのために買いました!楽しみにしていてくださいね♪」と、天真爛漫に一度も会ったことないススムの友人と電話で話す。

✤二人で、腕を組んで歩いていると、♥「私の胸って、大きくないけど、綺麗な形しているでしょ♪」と、ススムの耳元で、どっきとさせることをお茶目に言う。

✤夜の公園で、カナは、周りを見渡し、人気がないと、ススムの膝の上に乗り、キスをしてくる。

✤毎晩、カナは、夜の仕事が終わると、必ず、♥「今日もお疲れ様でした。おやすみなさい。」と電話をくれる。

(こんな話って、あなたは、読んでいて、さすがに、よく書くよなと思われてでしょうねw

ただ、これだけは、きちんとお伝えしたいです。

障害や制約があるほど、私達二人は、かえって、ますますラブラブになっていったのです。)



そんなラブラブな二人だったが、、、

 

早朝のこと、いつものように、ススムは、スーツに着替え、仕事に出ようとしていた。

「よし、今日も男前だ。」と、ふざけて、鏡の前に立っていたそばで、ススムの携帯がなった。

着信番号を見ると、カナからだった。

(なんで、こんなに朝早くに、どうしたんだ?今日は約束していないけど、会いたいな、とでも言いたくて、電話してきたのかな?でも、やっぱり、早いな。)

「もしもし。」

聞こえた来た声はカナではなく、男性の声だった。

(うん、誰だ?)

「もしもし、ススムさんですか。僕、カナの弟です。姉から頼まれて、電話しました。

姉が交通事故に遭って、これから手術します。

あっ、姉が出るそうです。ちょっと、待ってください。」

(この人は、一体を言っているんだ?ふざけているんじゃないか。確かに、弟さんがいるとは聞いていたけど、)

この時、ススムは、初めて弟と口を聞いたのだ。

(それにしても、信じられないことを言っている。)

ススムは、少しだけ、身構えた。

苦しそうな声が聞こえてきた。カナだった。

「もしもし、あの、ススムさん、ごめんなさい。

私、首の骨、折っちゃったの

これから、手術なんだけど、先生に頼んで、電話させてもらったの。

じゃあね…。」

ススムは、完全に、固まっていた。

「もしもし、替わりました。ということですので、必ず、姉が連絡するので、待っていてください、と言っています。

なので、待っていてください。」

ススムは、
焦って訊いた。

「いや、あの、今は、どこの病院なんですか。」

「とにかく、姉は連絡すると言ってますので、連絡、待っていてください。」

電話が切れた。

カナの弟は、ススムの問いに、答えてくれなかった。

ススムは、部屋の真ん中で立ち尽くしていた。

頭の中は、カナの最後に発した「じゃあね…。」という言葉だけが、残っていた。

(何が、「じゃあね」だよ!今、カナは、とても痛くて、苦しいのに、、、もっと、「辛いの、助けて」とか、言ってくれよ!)呆然としながらも、そんなことを思った。

それでも、何とか、思い直し、仕事に出かけた。職場に着く間、頭から、カナの声が離れなかった。

いや、職場に着いても、一日中、ずっと考えていた。

生徒たちには、申し訳なかったが、授業に身が入らず、放課後になると、早退を教頭先生に申し出て、急いで自宅に戻った。

手には、途中本屋で買った関東の病院一覧の本があった。

(今と違って、ネットのない時代なので、簡単には調べることが出来ず、こういうときは、本に頼るしかないです。)

ススムは、その病院一覧を見て、片っ端から、電話をかけた。年齢と名前を伝え、交通事故で入院していないかを、尋ねた。

甲斐もなく、その日が終わった。翌日も同じことをした。

新聞も買って、そのような事故がニュースになっていないか、見てみた。

日曜日になると、出来る限り、予想を立てて、実際に病院に足を運び、親類であると嘘をつき、カナが入院しているはずと病室の番号を尋ねた。

どこの病院もそういう名前の女性は入院していない、と言われた。

もちろん、カナの携帯にも、毎日かけた。その度に、留守電のアナウンスの声に、変わってしまった。

ススムは、どうして良いのか、わからなかった。

でも、絶対に手術は成功しているに違いない。どこかの病院にいるはずだ。
探して、元気づけてあげないと。

何の手がかりもないまま、時は無情に過ぎて行った。


郵便物の中に、一枚の絵葉書があった。それは、カナからだった!

3ヶ月が経った頃、ススムは、こう考えた。

(絶対に諦められないぞ。何が何でも、カナの入院先を、見つけてやる。)

来る日も来る日も、ススムは、あちこちの病院に、電話をかけまくった。

途中、こんなことを続けて、本当に見つけられるか、心が折れそうになったこともあった。

でも、その度に、あのカナの屈託のない声と笑顔が頭に浮かび、何クソっと、自分を奮い起こし、頑張るのだった。

それに、こうも思った。

(カナは首の骨を折っているだぞ!苦しいのは、カナの方だ!こんなことで、めげてどうする!)

再び、ススムは黒電話の受話器を握りしめた。(この時代は、いわゆる家電を使うことが普通で、携帯は、まだ一人一台ではなく、それほど普及していませんでした。それに、携帯を使うと、使用料も結構しました。)
夏が来た。鬱陶しい梅雨も終わり、7月の空は、真っ青に晴れ渡っていた。

しかし、ススムの心は青空のように、晴れることはなかった。

ただ、ススムは、あることを思いつき、それを、2週間ほど、行なっていた。

カナの携帯は、留守電機能を使えば、他の電話から、留守電を聞くこと出来た。

つまり、他の電話から留守電サービスにかけて、暗証番号を入れると、自分への留守電メッセージを聞くことが出来た。

(カナの携帯はススム名義のものだったので、ススムは暗証番号を自分で設定していた。)

その留守電は、聞き終わると自動的に消去された。聞かれないまま、放置しておくと、5日後に自動的に消えるシステムになっていた。

(お分かりいただけたでしょうか。)

ススムは、一縷の望みを、それに託した。カナが携帯の留守電を、いつか聞いてくれるのではないかと。

その日に、カナの携帯に留守電を入れて、5日間、ススム自身の声が残っていれば、カナは、聞いていないことになる。5日以内に、ススムのメッセージが消えていれば、それは、カナが聞いていたことになる。

ススムは、7月に入り、このことを試しに始めていたのである。そして、7月の半ばの出来ことである。



7月15日

 ススムは、今日もカナの携帯に一生懸命考えた応援メッセージを留守電に入れた。(必ず、いつか聞いてくれると信じて。)

この日は、「かなちゃん、こんにちは!今日も応援メッセージ入れるね。今日思ったことは、雨のこと。雨って、鬱陶しいし、嫌なものだよね。本当に、降っているときは、憂鬱になるよね。

でもね、雨がずっと降り続くことはないよね。必ず止む。必ず、晴れが来る。そう、止まない雨はないんだ。

毎日、早く良くなることを祈ってます。では、今日も歌います。

丸い地球の水平線に何かがきっと待っている〜う〜う〜。苦しいこともあるだろさ。悲しいこともあるだろさ。だけど、ぼくらはくじけない。すすめ〜!……♪

カナちゃん、じゃあ、またね。」

こんなメッセージを留守電に、カナを思い浮かべながら、ススムは入れた。

7月16日

 留守電サービスにかけた。ススムの昨日入れたメッセージが流れた。(カナは聞いていない。)

7月17日〜18日

 16日と同じように、ススムのメッセージが流れた。(やっぱり、カナは聞いていない。】

7月19日

 その日のこと、、、

 

夏の熱い日差しを受けて、帰宅の道を歩いていた。

ススムは、おもむろに、自分の携帯を取り出し、留守電サービスに、いつものようにかけ、暗証番号を入れた。

「お預かりしているメッセージはありません。」

と、変わらない機会的な声だった。

でも、この時、ススムは、この留守電は、いつカナの携帯の入れたかを考えた。

昨日の時点で、5日経った留守電メッセージは自動で、消去されていたから、すぐにその後、ススムは、新たなメッセージを入れいていたのだ。

♠(えっ!まさか、カナが聞いてくれたのか!

ススムは、半信半疑だった。なので、その日に、改めて、メッセージを入れた。

そして、翌日、消えていたのだ。ススムの留守電メッセージが!

ススムは、もう確信した。絶対に、カナが聞いてくれている。ススムは、興奮状態にあった。

もう嬉しくて、毎日、カナを励まそうと、一生懸命考えて、応援メッセージを入れた。

こうして、確実に留守電メッセージは、翌日、いや、早い時は、その日の内に、消えていた。


8月になり、ススムが顧問をしているサッカー部の合宿があった。

真っ黒に日に焼けたススムは、合宿から、重い荷物を背負っって、ヘトヘトになりながら、自宅に戻った。

5階の部屋に戻る前に、郵便受けを覗いた。7日間も家を開けていたので、郵便受けの狭い空間は、色んな郵便物でいっぱいだった。

それを、無理やり、引き出して、そのまま、部屋に持ち帰った。

ススムは、合宿の疲れで、部屋に入るなり、ベッドに倒れ込むようにして、寝てしまった。

小一時間は、寝ただろうか。ススムは、疲れた体を起こして、合宿の荷物を整理し始めた。

やっと、終わったと、ホッとして、テーブルに目をやると、無造作に置いた郵便物の塊が、そこにあった。ああ、面倒くさいなと、思いながら、1週間分の郵便物に目を通した。

ほとんどがダイレクトメールだったが、その中に、ガス、水道の伝票があった。それだけを、脇にやろうとした時、間から1枚のハガキが出てきた。

(うん、これは何だ?)

と思いながら、文字を見た時すぐに、

誰からのものか、わかった。

カナが、よこした絵葉書だった。

その言葉を食い入るように、ススムは読んだ。その瞬間、ススムは、大声で泣いた。

















その実際の絵葉書が、これです。


(↑の中に最後に書いてある『ひょうたん島』の歌は、正しくは、『ひょっこりひょうたん島』ですが、このテーマソングを、私は、カナを励ますために、留守電に、毎回唄って入れてました♪)

(👇クリックすると、音楽が流れますので、お気をつけ下さい。)

 

その絵葉書を、ススムは大事そうに、胸に抱え、一人部屋の中で叫んだ。

「生きてくれていて、ありがとう!」

こうして、ススムは、気の遠くなるような長いトンネルから抜け出すことが出来たのである。


(私は、この経験で、人は何があっても絶対に諦めてはいけないのだ、ということを、身を持って、
知りました。

願いは叶う。

待てば海路の日和あり。

待つことは、時には、本当につらいですが、人を強くしてくれます。

でも、こんな時、本当に相手を愛しているのか試されましたが、

私は、心の底から、カナを愛していると、気づきました。

なので、ある思いをカナに伝えようと、思いました。

その話は、次回に、させて頂きます。)


<<次回予告>>

ススムは、交通事故で瀕死の重傷を負ったカナと、奇跡の再開を果たす。しかし、カナの身体の状態は、どんどんと悪くなる一方であった。そして、悲しい別れが訪れるのである。

(つづく)

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