第2話:ベテラン先生との対立
「先生!
サッカー部作ってください!」
さて、改めて、私ススムのブログをご覧頂き、御礼申し上げます。
正直に言いますね。
このブログを書くことは、私にとって、かけがえないのないことなんです。書きながら大きな幸せを感じています。
なので、どうしても力が入ってしまい、夢中になっている自分がいます。
今も仕事から帰宅して、身体は疲れているのに、このブログを書いていると、心は元気いっぱいになっています♪
そんな私ススムのブログにお付き合い頂き、あなたには、感謝の言葉しか思い浮かびません。
では、第2話を始める前に
前回のあらすじをお読みください。^^
<<前回のあらすじ>>
ススムは新任教師として、女子の生徒数が圧倒的に多い、ある商業高校に赴任した。いざ授業が始まると、机上で考えた教案通りには進まず、生徒たちは、私語ばかりだった。
しかし、先輩の先生のアドバイスもあって生徒たちは授業に、耳を傾けてくれるようになり、クラスによっては楽しい授業も出来るようになっていった。
数少ない男子生徒たちから、思いがけない依頼を受ける。
ススムは、自分の英語の授業で、生徒たちを感動させることができ、なんだか、少しだけ、自分の授業に、自信を持てるようになっていた。
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今日も何とか授業が終わり、職員室で小テストの採点をしていると、職員室の入り口から、男子生徒たちの声が聞こえてきた。
「ススム先生いますか?」
その声の主と共に数名の男子が真っ直ぐ、ススムのところにやってきた。みな1年生だった。
すると、いきなり
「先生、サッカー部作ってください!」と開口一番、そんなことを言ってきた。
「ススム先生は、ずっとサッカーやってきたんですよね?」
「先生にサッカー部の顧問になってほしいんです。お願いします!」
彼らは、わずか30名ほどしかいない男子生徒たちの中の1年生だった。
(この商業高校では、学校全体で、女子の数が600人に対して、男子はわずか30名という比率でした。
男子が30人に対して、女子が600人って、どう思います?男性から見たら、ハーレム状態ですよねw
でも、実際は、そんなことはなく、男子生徒たちは、女子たちに圧倒され、隅に追いやられていました。)
その男子たちが、自分たち男子もいるんだと、誇示する機会を探していた。男子として、負けたくないという強い気持ちがあった。
そんな思いを胸に自らの意志で、部の設立をススムに訴えてきた。
その中心にいたのはマコトだった。
伊賀栗頭(いがくりあたま)のひょろっとした、背の高いの男子。彼は、真っ直ぐに、
目を輝かせて、ススムを見ていた。
(彼は、母親との二人暮らしで高校卒業後は、就職して、稼いだお金で母親を早く楽させて上げたいと考えていました。とても、真面目ないい奴です。)
その気持に、ススムは応えたいと、すぐに思った。
「わかった。
何とか設立できるようにがんばるよ!」
と答えたものの、ススムにとっては、少し勇気のいる仕事になったなと感じていた。自分の一存で行えるほど簡単な案件ではないし、このような場合は職員会議に議案として、かけなければいけないのである。
(当時の高校では、会議で議案が出されると、教員たちが必要に応じて、各自意見を述べ、採決を行い、半数以上の賛成が得られれば、その案件が通り、それを学校長が追認する形をとっていました。)
ひとまず、この案件を諮ってもらうべく、ススムは、教頭先生に伝えた。教頭先生は、特に何もそのことには触れず、「わかりました。」と返答しただけだった。
その返事のみで、終わってしまったことが、ススムをかえって不安にさせたのである。
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水曜日が来た。定例の職員会議は、月に一度水曜日に行われるのである。
その日は、朝から落ち着かなかった。放課後の職員会議ばかりが気になっていた。
ススムは教師になって、まだ一度も会議で発言したことはない。もちろん、新人故に、勉強中という意識もあり、発言するとは、おこがましいとも考えていた。
それが、よりよって、議題を通してもらうことが第一声となってしまったのである。先輩の先生方を前にして、きちんと話せるだろうか。特に、大ベテランの先生方は、普段から会議でよく発言していて、その迫力にいつも感心し、また圧倒もされていた。
会議が始まる直前、
男子生徒たちが、ススムのところにやってきて、
「先生! お願いしますね!」
と声をかけてきた。
それを聞いたススムは、武者震いと同時に
(そうだ! 僕は生徒たちのために、
頑張るんだ!
そのために、教師になったんだろ!)
と、自分に言い聞かせ、会議室に臨んだのである。
職員会議で勇気を出して、サッカー部設立の提案をするも、ベテラン教師から猛反対を受ける!
「それでは、会議を始めます。まず、報告事項からです。教務部、田沼先生、お願いします。」と議長を務める教頭先生が言った。
(このように、職員会議は、*各分掌の主任の先生方が、分掌に関わる報告事項を話していきます。
*分掌:
「教務部」は、年間行事計画、成績、時間割、考査試験などに関わる仕事を
「生活指導部」は、体育祭、文化祭などの行事、問題行動の生徒の指導などに関わる仕事を
「保健部」は、健康診断、日々の体調管理、美化などに関わる仕事を
「進路指導部」は、卒業後の進路の指導に関わる仕事を
「学年」は、各学年のクラス運営に関わる仕事を、行っています。)
一通りの報告が、各分掌の主任から終わると、教頭先生が
「次に、本日の議案ですが、サッカー部設立についてススム先生、お願いします。」と言った。
ススムは、その言葉に促されて、その場で立ち上がった。
「はい! えーっと、あのー。」(緊張しすぎてシドロモドロ^^;)
「サ、サ、サッカー部を作って頂きたいのですが…。」
(因みに、私は、高校生の頃から、吃音が始まり、緊張するとそれが顕著に現れていたが、大学生以降は収まっていたので、どれだけ緊張していたかが自分でもわかっていました。
さらに余談ですが、吃音だけでなく、時として、頭が真っ白になって、言葉が全く出せなくなる症状も高校時代はありました。
教師になってから、数年は突然その症状が出ることがあって、焦ったことがあります。ただ、次第に、教師として、成長していくうちに、吃音も言葉が出なくなることもなくなって行きました。
プロフィールにも書きましたが、私ススムは、本当に自信を持つことができなく、それを乗り越えるには、かなりの年数が必要だったのです。まあ、よく言えば大器晩成型ですw)
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ススムがサッカー部を作ってほしいと、言ったそばから、すぐに
「反対!」と大きな声が聞こえてきた。
その声の主は、声だけですぐにススムはわかった。体育の小橋先生だった。小橋先生は、言ってみれば、学校の長老のような存在で、単にベテランというだけでなく、学校の運営にも影響力のある先生だった。
小橋先生は、続けて、
「そもそも、うちの校庭は狭い。そこに新たな運動部が入る余地は全く無い。それに、少ない男子だけで、どうやって、クラブを続けていくのか?甚だ疑問だ。だいたい、あんたは、新人だし、学校のことが全くわかっていないよね?
そんな人に、任せるなんて、ありえない。他の運動部にも迷惑だ!」
ススムは、グウの音も出なかった。「はい…。」力なくススムは言った。
その時、「まあ、そう言わないで。少しは検討してあげたらどうですか?」と、商業科のベテランの先生である高林先生が、助け舟を出してくれた。
高林先生は、その時1年生の担任で、そのクラスにいる男子たちが、サッカー部を作ろうとしていることを知っていたのだ。
「うちの男子たちは、普段肩身の狭い思いをしており、どこかで活躍できる場あれば、と思っていたのです。」
それに対して、小橋先生は、
「いや、そんなことを言ったって、活動する場所がない。今、うちで強い部活を知っていますよね。テニス部、ソフトボール部、ハンドボール部、この3つのクラブで校庭はいっぱいなんだ。だから、無理!」
その後、他の先生達から賛否両論が出たが、しばらくすると、教頭先生が、「では、時間も時間だし一応、採決を取りましょう。」と言った。
先生たちが、挙手をした。
賛成、23名 反対、25名。
結果、わずかの差だったが、反対が過半数のため、この議案は否決となった。(T_T)
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ススムは、男子生徒たちに、どう謝れば良いのか、わからなかった。
会議が終わり、会議室を出ると、廊下に男子生徒たちが、結果を早く知りたくて、待っていた。
「申し訳ない!」
ススムは生徒たちに、頭を下げた。生徒たちは、悲しさを隠して、
「先生、会議に諮ってもらって、ありがとうございました。」
と言ってくれた。それが余計にススムには辛かった。
(僕は、なんのために、
教師になったんだ!
生徒たちのために
力を尽くすために
なったんじゃないのか!
この大馬鹿野郎!)
ススムは、情けない自分を責めた。まんじりともせず、家に帰っても寝られなかった。
ススムは、一度は否決されたが、諦めることなく、サッカー部設立のために、力を尽くす。
朝を迎え、気力の出ないススムは、なかば強引に学校に向かった。職員室にたどり着くと、中田先生が、声をかけてくれた。
本当に、中田先生は、私にとって、スーパースターでした。
「あのさ、会議で議案を通したいときはね、根回しが必要なんだよ。いきなり、会議で提案したって、うまくはいかないんだよ。昨日だって、全く反対ばかりじゃなかったんだから、きちんと根回ししていれば通っていたよ。」
(えっ、
それを早く言ってよ!)
ススムは心の中で言った。
「賛成、反対、ほぼ同数だから、まだなんとかなるよ。」と、中田先生は言ってくれた。
「来月にまた定例会議があるから、それまでに根回ししなよ。ただし、ただ作りたいでは、だめだよ。
きちんと計画書を策定するんだよ。目的、活動理念、方法、活動場所など、正式な文書でなくてよいので、それらを根回しで先生方に、一人一人話して、お願いするんだよ。了解した?」
「はい! わかりました!でも、中田先生、もう昨日の会議で却下されてますが…。」とススムが言うと、
「いや、大丈夫だよ。提案者を変えればいいだけだよ。よかったら、今度の会議で、
僕が動議で提案してあげるよ。」
ススムには、もう中田先生が、神様のようにしか見えなかった。
「でも、とにかく、しっかり計画を練ることと、根回しだよ」
その最後の中田先生の言葉を聞き終わるやいなや、ススムは更衣室に行き、ジャージに着替えた。
ススムは、もうわかっていたのである。一番のネックは活動場所であることを。
とにかく、活動できる場所を探さなくては、ススムはそう考えながら、学校の外に出た。ススムは、学校から走って、20分以内のところに、どこか空き地やグラウンドがあれば、と考えたのである。
放課後にすぐに練習するためには、遠くても20分以内でないと、認めてもらえないだろう。
そう踏んで、ススムは、走った。その後も、毎日、放課後になると外に出て、一人で走った。
(現代なら、スマホですぐに検索すれば、場所は見つかりますが、なにせ、携帯電話などない時代でですし、情報が簡単には得られなかったです。地図を見ても、細かい情報は載っていませんでした。
それが、ススムが新人教師として生きた昭和55年でした。)
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直感を頼りに、ススムは、1週間走った。
(もっとうまくやればいいのにと、あなたは思われますよね。私ススムは、
このように不器用な男なんですw)
それでも、ススムは、この時、何のあてもないのに、一人で、興奮し、勝手に幸せを感じていた。なぜなら、今、自分は生徒たちのために、頑張っているんだ、と思えたからだった。
そう思うと、ますます元気が出た。そして、心の中で、歌を歌っていた。
ススムが好きだったテレビの学園ドラマ「これが青春だ!」の主題歌だった。
『大きな空に、
はしごをかけて。
真っ赤な太陽、
両手でつかもう。
誇り一つを胸に掲げて。
恐れ知らない。
これが若さだ。
そうともこれが青春だ~♫』
(↑クリックすると音楽が流れますので、お気をつけ下さい。)
大学時代にススムが夢見ていた、教師像は、高校の英語教師でサッカー部の顧問であった。
なので、今ススムはサッカー部を作ろうとしている自分が、どれほど幸せなのかを噛み締めていた。
(絶対に、見つけてやる!
絶対に、
サッカー部を作ってやる!)
(今でも、私は、その道を覚えています。不思議なことに、まるでこちらに行けばいいんだよ、と誰かが手招きしてくれているかように、
その真っすぐな道だけが、明るく見えたのです。本当なんです!)
ススムは導かれるように、道を走っていくと、少し坂が見えてきた。その先には、川の土手があり、土手沿いには、グランドがいくつも並んでいたのである!
土手の上から、ススムはそのをグラウンドを眺めていた…
(ここだ! 見つけたぞ!)
そう思うやいなや、すぐにそこに看板があるのを見つけた。役所の管轄であることがわかった。その電話番号を覚え、電話をかけた。事前に予約をすれば使えることがわかった。
(よし!)
ベテラン教師との対決!生徒たちのために、負けるわけにはいかない!
こうして、次の定例会議に、ススムは臨んだのである。
根回しは、しっかりとやったつもりだった。あとは、あの小橋先生に、どう理解してもらうかだ。小橋先生は、事前には話を聞いてくれなかった。いわば、門前払いを食らっていたのだ。
(このときの私は、緊張よりも、全力を尽くすのだという、気持ちしかありませんでした。火事場の馬鹿力とは言いますが、それとも違う不思議な力が身体の中心から湧き上がっていました。)
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会議の議事が最後になった。ススムは緊張していた。心臓の音がバクバクと鳴っていた。
動議が出た。高林先生が挙手して、話を切り出した。
(高林先生のクラスの男子生徒が希望しているサッカー部設立だったので、中田先生より高林先生の提案の方が、より自然であろうと、高林先生自らが動いたくれたのである。)
「前回却下されましたが、改めて、サッカー部の設立をお願いしたいと思います。」
すぐに、小橋先生が挙手し、言った。
「何を言っているのですか?前回否決されたものを、また言い出すのですか?訳がわからん!とにかく、無理なものは、無理なんだ!」
ススムは、もう我慢できなかった。
「はい!」と手を挙げ、声を震わせながら、続けた。
「まず、高林先生、ありがとうございます。再度提案して頂いて、大変嬉しく思います。
えー、私が言うまでもなく、男子生徒たちは、女子に圧倒され、活動する場もなく、元気がありません。
その彼らが自ら部活動を、やりたいと言ってきたのです。その気持を尊重したいと思います。
私はたまたま小学生の頃より、サッカーをやってきたので、専門家ほどではありませんが、指導できると思います。
また、先生方が心配されている練習場所ですが、学校から走って、20分弱のところに役所管轄のグランドがあります。
予約をすれば無料で借りられます。平日の午後4時頃は、空いており、比較的予約が取りやすいです。きちんと練習計画も立てます。
また、目標として、商業高校の大会でベスト8を目指します。
今は、希望する部員は少ないですが、2,3年生の男子にも声はかけてあります。
ぜひ、彼ら男子に活躍する場を与えてあげてください。お願いします!」
ススムは予め考えていたことを、一気に話した。それに対して、さらに小橋先生が、反論してきた。
「学校の外で活動するなんて許されない!何かあったらどうするんだ!」
「私が責任を取ります!」
とうとうススムは挙手もせず、座ったまま応えてしまった。慌てて立ち上がって、
「私が責任を取ります。
何かあったら、
私は教師をやめます!」
ススムは本気だった。もちろん、そんな無茶な論理はないのだが、学校での最終責任者は、学校長である。
「まあ、いいじゃないですか。ススム先生はまだ若いし、何もわかっていないけど、気持ちは十分伝わってます。」と、教頭先生が支持してくれた。
「ここは、採決せずに、設立を認めるということで、どうでしょうか? 皆さん。賛成される方は、拍手をお願いします。」
「はい。拍手多数と認めます。従いしまして、サッカー部設立は、可決されました。校長先生、宜しいですね。」と、教頭先生が見事にまとめてくれた。
(挙手による採決は、数字では、はっきりしてしまうが、拍手ならその音の大きさで決められる。いわば、伝家の宝刀であった。)
小橋先生は、席でまだブツブツと何かを言っていた。そして、最後に「俺は知らん!」と言って、席を立つと同時に、
教頭先生が、「それでは、本日の会議は終了です。」 先生達の退室を促し、小橋先生を目立たないようにした。(流石、教頭先生!)
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会議室を出ると、前回の会議とと同じく、男子生徒たちが廊下に立っていた。
「先生!
通ったんですね!」
ススムの満面の笑みを見て、生徒たちはすぐに朗報だと分かったのである。
「おー、そうだよ!
良かったな!」
と言いながらも、それ以上は言葉にならなかた。はからずも、ススムは涙を流していた。
(この時のスススの心情は、あなたにも十分わかって頂けるかと、思います。解説は野暮になりますので、やめておきます。しばし、余韻に浸ってくださいw)
(今にして思えば、サッカー部設立の成功は、もちろん根回しも、その要因だと思いますが、大きな要因は、目標設定、具体的な計画や数値などを、きちんと伝えたことにあると思います。)
こうして、ススムは夢見ていた高校の英語教師で、サッカー部の顧問となったのである。
<<次回の予告>>
紆余曲折を経て、職員会議でサッカー部設立を、ようやく認めてもらったススムだったが、サッカー部の練習初日から、生徒たちの様子を見て、順調には行かないことをススムは思い知るのである。
(つづく)
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