第6話::
誰のための教師?
「先生、一体生徒たちと何をしでかしたのですか?」
皆さん、こんにちは。私の連載ストーリーも第6話に突入しました。
これまでは、私の新人教師の時代の話でしたが、時をだいぶ先に、進めさせて頂きます。
<<前回までのあらすじ>>
サッカー部顧問となったススムは、苦労しながらも、部員を集めたが、初心者の多いチームであったため、試合で勝つことなど至難の技であった。しかし、商業高校の大会に参加し、目標としたベスト8どころか、奇跡的に3位を勝ち取ったのである。
そんなススムは、初任校の商業高校を離れ、時は12年が経過していた。ススムにとっては、4校目の高校赴任であった。
赴任初日、校長先生と面談を行うが、ススムには、納得できない話だった。
ススムは新しい高校に赴任した。そこは、いわゆる進学校であった。生徒たちのほとんどが、大学に進学する。しかも、偏差値の高い大学を目指す生徒たちが多くいた。
ススムにとっては、進学校は初めてだった。しかし、レベルの高い生徒たちに、英語を教えることは
とてもワクワクすることであり、やりがいがあると感じていた。
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ススムは校長室にいた。
赴任した初日、ススムは校長先生と面談していた。
「宜しいですか、うちはご存知のように、進学校です。この地域でも、1,2位を争う合格実績のある高校です。実績だけでなく、評判も高いと自負しています。ですので、ススム先生にも、英語教師として、その一翼を担ってほしいと思います。
前任校の校長先生から伺っていますが、あなたは生徒に人気のある先生だったようですね。当校では、ぜひ英語教師として、高いレベルの授業の出来る先生として人気を得られるよう、頑張ってください。
あっ、それから、念の為に言っておきますが、我が校の生徒にとって、大切なことは、1に2にも、勉強です。そこのところを忘れないでくださいね。」
ススムはその校長先生の言葉を、黙って聞いていたが、心の中では、
(ふーん、そうなんだ。
受験勉強、、、。合格実績、、、。
確かに、それも大事かもしれないけど、二度と来ない高校時代という貴重な青春期を、単に受験勉強一辺倒で済ませて、いいだのろうか。
あなたは、どう思われますか?)
そんなことを校長先生の前で、何も言わず、考えていた。
(以前の私でしたら、もっと大事なことが、生徒たちにはあると、きっと校長先生に食って掛かっていたと思います。
前に赴任していた高校では、職員会議で、校長先生を怒鳴り散らしたり、かなり強気な先生になっていましたので、月日が経つに連れ、角が取れたのだと思います。^^
いや、本当のことを申し上げます。
実は前任校では、あまりにも強気になりすぎて、全職員の先生の中で、異端となり、ある意味、四面楚歌を味わったのです。挨拶をしても誰も返事してくれない、廊下を歩いていると、肩をぶつけられる、自分が担当している仕事を誰も手伝ってくれない、等
いやー、本当に大変でしたw
その反省もあって、すぐに反論したり、強気に意見を言うことは、控えるようになったいたのです。)
(因みに、私の父が生前、社会人になった私に「ススム、決して驕るなよ。」と、よく言ってくれていました。私が、頭がよく、すぐに何でも人より出来ると、父は私を見ていたので、「偉くなるな。謙虚でいなさい。」と、教えてくれたのです。
でも、その言葉を実践するには、時間がかかりましたがw
楽しみにいていた授業も、覇気の感じられない生徒たちばかりであった。
ススムは、この赴任したばかりの高校の初めての授業に行なうために、担当のクラスの教室へと
足を向けていた。
その時、ススムは少し違和感を感じたのである。これまでススムがいた高校では、授業前の休み時間では、廊下などに生徒たちがたむろしていて、クラスメートたちと雑談したり、ふざけあったりしている光景があった。
ところが、今ススムが歩いている廊下には、誰も生徒がいないのである。
(えっ、マジ!? どうしちゃったの? 生徒たちは、みんな何をやっているのだい?)
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ススムは、恐る恐る、これらから授業を行う教室の扉を開けた。
もう教室の扉を開けることなど、それまで10年以上、当たり前のように何も考えずに
開けていたので自分でも、
(なんで、こんなに緊張するんだ?)
と、思った。
扉を開けた瞬間、すべての謎が解けた。ススムの目に飛び込んできたものは、生徒たちが、それぞれ自分の机に座り黙々と既に勉強している光景だった。
彼らは、大学受験を意識して日々、こんな風に勉強に明け暮れているに違いない。そう、ススムは思った。
(さて、このような生徒たちを前にして、もしあなたが先生なら、どうしますか?
彼らの目標は、志望大学に合格することだから、その努力を認め、さらに頑張れるように応援する
という感じでしょうか?)
もちろん、ススムも同じことを考えた。しかし、それだけでは、十分ではないと思った。なぜなら、
高校生という時代は、一度切りしかない、とても大事な時期だと、思うから。
部活動、学校行事、恋愛、仲間とのふれあい、等、正に青春を謳歌できる時である。そこで経験したことは、人生の中で、きっと大きな思い出となり、また、人間として成長する上で、かけがえないの宝を得ることができると思うのである。
(特に、ススムは高校時代を悲惨な思い出しか持たず、そんな経験は、自分の生徒たちにはさせたくないという思いで、高校教師になって10年以上、生徒たちに接してきたのである。)
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ススムは、その最初の授業から、いきなり、語り始めた。
「なんだか、みんな元気なさそうに見えるんだけど、気のせいかな?
これから、もちろん、英語の授業を始めるけど、こうやって、雑談から入るのが、僕のスタイルなんだ。
なので、少し耳を貸してね。」
こんな風に話始めたのだが、かなりの生徒が、顔を上げることもなく、参考書に目を落としたままでいた。
それでも、ススムは怯むことなく、話を続けた。
「聞くところによると、卒業生の多くが、有名大学に進んでいるんだね。とても素晴らしいと思うよ。そして、みんなも同じように、志望校合格を目指して、頑張っているんだと思う。
ただね、ちょっと、みんなに訊きたいんだけど、学校生活は楽しいかい?」
(シーンw)
「返事がないけど、勝手に想像するに、どうやら、あまり楽しんでなさそうに見えるんだ。大事な青春時代を過ごせる高校生活を、もっとエンジョイした方が良いと思うよ。たとえば、学校行事とかでも、、、
クラスで何かの思い出つくりする経験って、高校が最後なんだよ。大学ではそんな経験は出来ないんだよ。一度しかない青春時代を、大切に過ごしてほしいと思うんだ。」
すると、ススムの話を、顔上げて聞いていた一番後ろの女子生徒が、言った。
「先生、だけど、この学校って、つまらないんです。学校行事も、何もかも。みんな、勉強のことしか考えてない感じ。先生たちも、同じように勉強の話しかしないんです。」
(ならば、自分たちで楽しいものを作り上げればいいじゃないか。人任せにしないで。)
とススムは、思ったが、それは口には出さなかった。決して、正面切って生徒を責めることは
したくなかった。
ススムは、その後も、この学校の生徒達の様子をじっくり観察していた。自分に何が出来るかを確かめるために…。
確かに、クラブ活動は、ラグビー部のような強いクラブもあったし、学校行事も、合唱祭、体育祭、文化祭とあったのだが、ほんの一部の生徒が頑張っているだけだった。
また、教師たちは、全く生徒の活動を支え、手助けしようとしている感じはなかった。生徒たちと一緒になって、学校全体で、盛り上げようという雰囲気もなく、大学受験の合格実績にこだわり、勉強一遍やりで、学校生活を楽しませようと思う教師は、皆無だった。
驚いたことには、学校行事などは、なくてもいいと思う教師さえいたのである。
ススムは、思った。
(ダメだ、こりゃ!)
ススムは、この学校の生徒たちのために、何かできないかと考えた。そして、自分が出来ることとして、2つのことを実行しようとした。
一つは、それまでの教育研究所で学んでいた心理カウンセリングについて、学びを深め、可能ならば資格を取り、生徒たちの心の相談に乗れるようにしたいということであった。一人一人の生徒の心を支え、悩みや不安を取り除き希望を持たせてやりたいと、考えたのである。
特に、受験生たちは、受験のことで、不安になり、学校生活など、どうでもよくなってしまうケースが多い。その不安を少しでも払拭させて、高校生活を楽しませてあげたい、ということだった。
そして、もう一つは、ススムが授業を担当する、特に3年生のクラスで、みんなで学校行事を盛り上げようと、訴えることであった。そのために、できることは何でも手伝うと。最上級生の頑張りが学校の雰囲気を変えられると考えたからである。
それに、3年生には、最後の高校生活になるので、何とか、いい思い出を作ってほしいと、ススムは願ったのである。
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一つ目のカウンセリングの学びについて、実行したことは、ある大学のカウンセリング研究所の、カウンセラー養成所に入ることだった。その研究所は、社会人でも夜学で学ぶことができ、認定カウンセラーとして、資格を取れる場所であった。
大変厳しい訓練を重ね、何とか、認定カウンセラーとなった。そして、いわゆるスクールカウンセラーとして、生徒たちの話に傾聴し、心を支える一翼を担ったのである。
(仕事が終わったあと、夜大学に行き、疲れた体に鞭打って、頑張りました。生徒たちのためという一心で、がんばれたと思います。それに、同じように、仕事帰りに学びに来ていた仲間たちもいたので、いい刺激になっていました。
というか、私などは、全然大変なうちには入っていませんでした。例えば、日中激務をこなし、遠く2時間も電車に揺られて来る、看護師さんがいました。その方の熱心さを目の当たりにすると、本当に頭が下がる思いでした。
でも、人間って、目標がしっかり定まっていると、どんなに大変でも頑張れるものですよね。だから、人間が大好きですなんですがw)
スクールカウンセラーとして、カウンセリングを希望する生徒のセッションが終わると、生徒からは、
「先生、ありがとう! 初めて、私の気持ちをわかってもらえる人が、現れた。本当に、元気出ました。」
そんなことを言ってもらえた。
ススムは、生徒の役に立てて、良かったと思うのである。でも、決して、自分が助けたなどとは
思うことはなかった。
(心理カウンセリングでは、いわゆるクライエントが、自ら問題点を発見し、その克服のために、努力しようと思えることを手助けするのが、カウンセラーのスタンスです。少なくとも、私が学んだカウンセリング研究所での教えはそうでした。
その教えの根底にあるものは、カウンセラーは、クライエントに忘れられて構わない。感謝の言葉とか、何か見返りを求めるとういことは、カウンセラーの驕りである。ひたすら、全身全霊で、クライエントの話を聴かせて頂くのが、カウンセラーの取る姿勢である。それが出来ないのなら、カウンセリング研究所の教官の言葉を借りれば、
「似非(えせ)カウンセラー!何のために、あなた達はいるのですか!?」
この言葉を忘れず、クライエントだけのことを考えて、全身全霊で傾聴できるように、努力しています。)
こうして、ススムは、カウンセラーとしても、校内で尽力するのであった。
ススムはもう一つのことも実行した。
生徒たちに、特に3年生達に授業で、訴えた。楽しい思い出を作ろうと。
それを今日もまたある3年生の教室に行き、授業の初めに行なった。
「今日も話をさせてもらうけど、人生一度切りだよね。そんな人生で、高校時代も当然一度きりしかないんだ。
後で振り返ったとき、こんな楽しい高校時代を送れてよかったって思えたら、いいと思わない? それに、社会人になってからの3年間と高校時代の3年間は、雲泥の差があるんだよ。
今経験できたことは、本当に大きな喜びとして、ずっと将来も心に残るんだよ。
だから、勉強も大切だと思うけど、これから訪れる学校行事は、みんなにとって、本当に最後の思い出作りになる。
僕は、みんなのクラス担任でもないけど、出来ることは何でも手伝うから、遠慮なく相談しに来てね。」
こんな風に、どのクラスに行っても生徒たちに、ススムは呼びかけた。
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ススムは、少しがっかりしていた。結局、何も変わらないのかと。生徒たちは、相変わらず、黙々と受験勉強に励んでいた。
合唱祭も、体育祭も、正直、あまりぱっとなしい内容で、終わってしまっていた。
9月になり、学校行事も、あとは、文化祭を残すだけとなっていた。そんなある日、数人の3年生が、ススムのところにやってきた。
「先生、俺たち後夜祭で、バンドやるんだけど、一緒にやらないですか?」
(あれ?これはデジャブかな?ずっと前に似たようなことを、昔、生徒たちとやったようなw)
⇒第4話
「おう!もちろん、いいよ!」
ススムは、即答した。
こうして、ススムは、その3年生達と、スタジオで週末、練習を重ねた。ただ、その演奏曲に、アコースティックギターの曲があり、担当だったススムは、その難解なギターフレーズを覚えるのに、苦労していた。
でも、ススムは、帰宅すると、どんなに疲れていても、一人夜遅くまで、練習するのであった。生徒たちとの演奏を考えると、嬉しかったからである。
緊急に開かれた職員会議で、ススムは、全教員に責められる!
いよいよ、文化祭当日を迎えた。しかし、天気予報によると、翌日は台風が接近するという。
緊急の職員があった。そこで、文化祭担当の田尻先生から
「明日は、台風が直撃しそうです。なので、文化祭は、本日一日で終了と致します。もちろん、後夜祭も中止とします。」
ススムは予め覚悟していた。多分、この学校先生たちは、学校行事に重きを置いていない。なので、当然こんな展開になることは予想できたのである。本当なら、文化祭を延期して、台風が収まってからやればいいのに、ススムは考えたが、、、
職員会議中、ススムは黙っていた。きっと、ここでススムが反論を言っても、賛同する先生は、皆無であろう。
しかし、ススムには秘策があった。というか、すでに後夜祭担当の生徒たちからこっそり打診を受けていたのである。
そしてススムは、その打診されたことを2日後に、生徒たちと実行したのであった。
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時を少し先に進めます。3日後のことである。またもや、緊急の職員会議が開かれた。
(今度は何事だろう?)
とススムは思った。
(まさか、バレてはいないと思うんだけどな)
(あなたには、何のことやら、よくわからないですよねw もう少し、辛抱して、お読みください。)
会議が始まった。すると、文化祭担当の田尻先生が、こう切り出した。
「残念なことがありました。生徒たちが、昨日、学校外のライブハウスに集まり、イベントをやったそうです。しかも、相当数の生徒が集まったということです。どうやら、200人以上が集まったようです。
実は、ラグビー部の生徒たちが当日、振替休日にもかかわらず、学校に来て部室から、いろいろ用具を持ち出したことがわかり、試合もないのにと、顧問の井上先生から、部員の生徒たちに問い詰めたところ、今回のことが発覚したというわけです。
大変由々しきことなので、臨時に会議を開き、皆さんにお伝えする必要があると考え、集まって頂いた次第です。まずは、文化祭担当者として、私の不徳の致すところで、このような事態を招き、大変申し訳ありませんでした。
もちろん、学校が何も把握していないところで、大勢の生徒たちが勝手に集まり、イベントをやるなんて、とんでもないことです。ただ、担当者としても、何事も問題は起こっていないようなので、校長先生にも、穏便に済ませるようにと、配慮頂きました。
なので、今回に限って、首謀者の生徒を探し出し、処分することは、なしということにさせて頂きます。
ただですね、そのイベントに一人だけ、先生がいたと報告を受けています。確認ですが、ススム先生、それはススム先生のことですか!?
いや、何も言われなくても結構です!こちらはわかっていることですので、でもですね、ススム先生!
教師たる者が、学校には一切告げず、勝手に、校外で一体生徒たちと、何をしでかしたのですか!?」
この田尻先生の言葉を皮切に、ラグビー部の顧問の井上先生を始め、かなりの先生がススムへ抗議の言葉を言った。何しろ、多くの生徒が参加していたので、その生徒たちのクラス担任の先生も、自分たちの知らないところで、生徒たちが勉強もせずに、何をやっていたのだと、怒っていた。
(先生たちは、そもそも、ライブハウスという言葉を初めて聞いたので何やら怪しいところだと思いっていた節もあった。)
ススムはあえてずっと黙っていた。ただ最後に、
「申し訳ありませんでした。生徒たちがあまりにも可愛そうだったので、つい手伝ってしまいました。以後気をつけます。」
と言って、ペコリと頭を下げて着席し、それ以上余計なことは言わなかった。
ただススムの心の中は、こうだった。
(確かに、学校に黙ってやったことは、良くなかったかもしれない。でも、一度誰かに話したら、止められていたに違いない。だからこそ、教員の誰にも話さず、独断で動いたのだ。
それに、もうやってしまったし、、、
だから、今は非難されても、我慢、我慢。)
ススムは会議室にいるすべての先生たちに、白い目で睨まれならがらじっと会議が終わるのを待っていたのである。(*_*;
生徒たちとススムだけの感動のライブイベント! 最高の夜となる!
文化祭当日、台風の影響で、外はかなり雨風が強くなっていた。その影響もあって、外部からのお客さんの入りも少なく、そうでなくても、盛り上がりに欠ける文化祭なのに、余計に寂しい空気が校内に漂っていた。
(このまま、文化祭も終わり、学校行事がすべて終了すると、3年生達には、いい思い出作りも
あまり、ないままになってしまうな。)
そんなことを考えていたススムの横に、気がつくと、一人の男子が、ニコニコしながら立っていた。
「わっ!びっくりした!黙って立っているなよ。」
「ごめんなさい。でも、先生を驚かせるのって、楽しいね!」
3年生の堀内が言った。彼は、いつもひょうきんで、人懐っこい生徒だった。
堀内はススムと後夜祭で、バンドを演る予定の仲間でもあった。
「ススム先生、知っていると思うけど、明日、台風が来て、どうやら、2日目の文化祭が中止になるらしいんだ。だから、後夜祭もなくなってしまう。
それで、俺たち有志で考えたことがあって、先生協力してくれないかな?」
堀内達、有志の生徒が考えた話とは、こうだった。
明日はきっと台風直撃で、何もできないが、明後日は、学校が文化祭の振替休日である。その休みを利用して、後夜祭の代わりのイベントを、ライブハウスを借りて、やりたいというのだ。
ただ、高校生だけでは、ライブハウスは使用許可が出せないから、ススムに一緒に参加することを
求めてきた。つまり、何かあったら、ススムが大人の責任者として、対処してほしいと。もちろん、学校には一切内緒でのイベントになる。
その内容を理解したススムは、堀内に言った。
「全然構わないよ。生徒たちのためなら、喜んで責任者になってあげるよ。学校にバレないように
うまくやらないとね。
というか、どうやって、生徒たちに呼びかけるんだい?」
すると、自信満々に、堀内が応えた。
「先生、これを見て、もうチケット作って、仲間たちと学校中を回って、200枚以上、配ったよ。あっ、いわゆるパー券だから、ちゃんと、お金ももらっているよ。だから、イベント費用も心配いらないから。
ライブハウスの方も、すでに借りてあるよ。だって、必ずススム先生が、引き受けてくれると思ってたから。 でしょ?ススム先生、バンドの方も一緒に頑張ろうね!」
ススムは、生徒たちの行動力に感心していた。何とか成功させて上げたいと思った。だた、唯一、心配事があった。それは、学校に、見つかって非難されることではなかった。
ススムがバンドで演奏するアコースティックギターの曲が、ちゃんと弾けるかだった。
(早く帰って、練習しないと)w
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学校から車で1時間ほど離れた郊外に、そのライブハウスはあった。有志の生徒たちとススムは、イベントが始まる6時間前に集合し、会場作りと、リハーサルを行なった。
とても音響のよい会場だった。広さとしても、200人が入るには、申し分ないスペースがあった。
しかし、あの普段、真面目な生徒たちが、学校に隠れて行うイベントに、参加するのだろうか?
(学校によっては、校則違反で、停学などの処分を受ける場合もあります。さて、あなたが高校生だったらどうしますか?或いは、高校生の親だったら、どうしますか?)
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いよいよ、イベントが始まった。ススムは、責任者ではあったが、有志の生徒たちが、実際に執り行うので、自分の出番まで、楽屋にいてくればいいと、言われていた。
ススムは出番が来るまで、楽屋でひたすらギターの練習をやっていた。w
でも、やっぱり、気になって楽屋を出て、ライブハウスの客席(スタンディングのスペース)の後方から、こっそり覗いてみた。その光景を目にしたとき、ススムは、ただただ感動したのだった。
一体何人の生徒たちが集まったのだろう?そのスペースは完全に立ち見の生徒たちで、いっぱいになっていた。
すると、ススムがいることに気がつき、場内がざわつき始めた。生徒たちは、驚いていた。学校には内緒だったはずなのに、、、
それに気づいた司会役の堀内が、機転を利かせ、こう言った。
「今日のスペシャルゲストのススム先生です!先生、ステージに上がって来て!」
「おいおい、予定が違うじゃないか。」
「先生、この際、いいでしょ。こんなにみんなが先生を見て、喜んでいるだから、一人で、何か歌って、ねっ、いいでしょう!」
ススムは、たくさんの嬉しそうにしている生徒たちを前に、覚悟を決め、普段家で遊びでやっていた弾き語りの曲を演奏することにした。
生徒たちは、ワンサカと、ステージ前に集まり、行き場のない生徒たちは、ステージの上に上がり、みんなニコニコしながら、ススムの演奏を待った。ススムは言った。
「最高の夜だね!みんな、ありがとう!」
生徒たちは、歓声を上げた。
「わー! 先生! 最高!」
そして、ススムが演奏を始めると、全員が手拍子を取り、会場中が一つになった。
それは今でも、信じられないほど、感動する光景だった。
ススムにとっては、この経験は、一生の宝となったのである。
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(その光景が
写真に残っています。)👇^^
(今、思い出しても、涙が溢れてきます。)
(生徒たち、本当にありがとう!!!)
ススムは、歌い終わると、感極まってステージを降りた。生徒たちから、次から次へと、
「先生、最高だね!」 「先生、ありがとう!」
とススムが投げた同じ言葉を投げかけられた。
生徒たちに、よい思い出作りを手伝うことが出来て、良かったと、ススムは思った。
その後、ススムと堀内のバンド演奏や他の出し物も、大いに盛り上がり、(ススムのギターはボロボロだったがw)、生徒たちが作り上げた、この素晴らしいいイベントは、無事に終わった。
ススムは、有志の生徒たちと後片付けをしているとき、気持ちも落ち着き、あることを思い出した。
(そう言えば、ほとんどの生徒たちは、学校の制服で参加していた。振替休日だったので、制服を着てくる必要はないのに。なんて、みんな真面目なんだ。)
その時、ライブハウスのスタッフが、ススムに挨拶に来た。そして、ススムに言った。
「こちらの生徒さん達は、素晴らしいですね。きちんと、掃除や後片付けをしてくれるし、それに、普通こういうライブハウスでは、隠れて、たばこを吸ったり、お酒を飲む高校生もいるのに、そんなことをする子たちは、一人もいなかった。
ほんと、ビックリ、というか、偉いですね。お陰で、こちらも気持ちよく、イベントの手伝いが出来ました。
先生も、誇りに出来ますね。本当に、ありがとうございました。」
ススムは、このスタッフの話を聞いているときに、謎が解けたのである。
生徒たちは、唯一参加している教師(ススム)に、絶対に迷惑をかけないように、きちんと高校生らしく振る舞っていたのだと。それが、彼らが示したくれたススムへの恩義であると。
そんなことも、堀内達生徒は、ススムに一言も言わずにいた。
すべての片付けも終わり、ライブハウスをあとにしようと、有志たちの生徒たちと別れの握手をしたとき、ススムは、ニコニコしている堀内達の前で図らずも、号泣してしまったのである。
「先生、泣くのやめてくれよ。とにかく、先生のお陰だよ。ありがとう!」
ススムは、涙で顔をグジャグジャにしながら、思った。
(もっと、もっと、生徒たちのために、頑張るぞ!)
第6話は、ここまでです。^^
<<次回予告>>
ススムは、学校改革の一人で乗り出し、いよいよ、学校のヒーローとなる。しかし、新しく担任としてついたクラスは、覇気が感じられないクラスであった。
(つづく)
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