第8話:大きく羽ばたく!
「僕たち、賞を取りたいんです!」
<<前回までのあらすじ>>
ススムは、最愛の母を亡くし、絶望の淵にあったが、生徒たちの存在が、彼を立ち直らせてくれた。さらに、母の死去がきっかけとなり、ススムのクラスは、大きく変貌したのである。
ススムの母の死をきっかけに、大きく変貌する3年6組!
2年生の時には、まとまりのなかったススムのクラスは、ススムの母の死去をきっかけに、大きな変化を見せていた。
3年生になり、いよいよ、行事(合唱祭、体育祭、文化祭)の賞レースが始まった。まず、6月は合唱祭だ。
合唱祭は、課題曲と自由曲の2曲を各クラスが歌い、競う。三学年すべてのクラスによる、校内の大会である。
学年で分けて競うのではなく、垣根を取っ払っての競争なので、1年、2年のクラスが、3年のクラスを破る可能性もなくはないが、やはり、実力の差は大きい。実際、3年生達は、身体的成長が著しく、発声では、下級生は太刀打ちできない。その歌声は、もう完全に大人の歌声なのである。
さて、ススムのクラスは、自由曲に
『風になりたい』(ブーム)
を選んだ。
(『天国じゃなくても、楽園じゃなくても、
あなたに出会えた幸せ…♪』
という曲です^^)
そう、あなたというクラスメートに出会えて、幸せという気持ちを込めて、彼らはこの歌を歌いたかったのだ。
本番までの約1カ月、6組は、毎日、朝練、昼練、放課後の練習を、クラス一丸っとなって、行なった。もちろん、その練習には、ススムも加わっていた。
(私にとっても、6組の担任として、最後の1年です。それりゃもう、力が入ってしまいます!w)
ただ、このような熱心な練習は、6組だけでなく、3学年のどのクラスも同じであった。
どのクラスも負けたくない、勝ちたいという気持ちが校舎に溢れ、この期間ずっと、18クラスの
いろんな歌声で、学校中が満ちていた。
(一番大事な話を、あなたにお話するのを、忘れていました。
この高校を、行事で生徒たちを元気にさせたい、楽しい行事にしたいと考えた私は、文化祭で3年生のすべてのクラスが演劇を行うように、仕向けただけでなく、3つの行事、合唱祭、体育祭(+応援団演舞)、文化祭を、合唱部門、体育祭部門、文化祭部門として、それぞれの1位〜3位を決めるのと同時に、3つの部門の総合順位を、決めることにしたのです。
その結果、バラバラだった各行事の競争を、総合優勝(大賞)目指して、すべてのクラスが、頑張ってくれるようになりました。
そんな企画を、この年の5年前に考え、学校の大きな行事として、定着させることに成功しました。
この高校は、私が赴任してきたばかりの大学受験一本やりだったときとは、大違いになり、高校生活自体を楽しめる生徒たちの学校になったのです。
さらに、行事に一生懸命になっていった生徒たちは、それまで以上に勉強にも集中して、やるようになったのです。
ある時、一人の先生に言われたことがあります。
「ススム先生お一人で、この学校を変えてしまいましたわね。」
とても嬉しい言葉でした。
また、このように生徒達の成長する姿を見て、私は、こんなことも感じました。
何か一つ、頑張れるものがあると人は、元気になり、前向きになって、いろんなことに、力を注げられるようになるのだ、と。)
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すべてのクラスが歌い終わり、合唱祭は終わった。
6組は、力を出しきれず、入賞出来なかった。18クラス中6位だった。
終了後、ホールの外に、ススムは、6組の生徒たちを全員集めた。
全員で大きな輪を作った。その中に、ススムが申し訳無そうに入り、言った。
「残念だったね。でも、みんなよく頑張ったよ。お疲れ様でした。」
ススムは、うまく励ますことは出来なかった。
すると、クラス委員の堀田が、目を充血させて、クラスのみんなに聞こえるように
大きな声で言った。
「悔しいです!総合優勝は、多分、もう無理です!
でも、僕たち賞を取りたいんです!絶対に、体育祭と文化祭で、賞を取ります!」
その言葉を聞いていたクラスの全員が、堀田とススムを見ながら、大きくうなずいた。
(最後尾の一番手前にいるのが、私ススムです♪)
9月になった。
2番めの行事は、体育祭である。この体育祭では、運動競技と応援団演舞のそれぞれで、競う形式になっている。
ススムのクラスは、赤組として、体育祭の昼休みに行われる応援団演舞に、優勝をかけた。
(体育祭は、各学年の縦割りに、1組〜6組までを色分けして、1組から順に、白、青、黄色、緑、ピンク、赤の組になって、対抗する形式だった。
応援団は、各組の3年生が主体となり、後輩たちは、若干の生徒が加わり、手伝うのが恒例だった。)
体育祭は運動競技である。なので、いくら練習すると言っても、運動が不得意の生徒もいる中で、入賞するのは、至難の技だった。
応援団なら、アイデアと練習によって、十分勝てるチャンスはある。
ススムのクラスは、応援団演舞で、有名な他校の優勝クラスをチェックした。
(早く言えば、その学校の生徒から教えてもらったのだw)
その演舞をアレンジして、これなら超独特で絶対に勝てると、生徒たちは思った。それに、クラスの何人かが、スパイになって、こっそり他の組の練習を、すべて盗み見ていたのだ。
(すごい、執念でしょw)
でも、ススムは担任にもかかわらず、どんな演舞なのか、見せてもらえなかった。生徒たちが言うには、
「先生、今回は、先生にも内緒だよ。いいでしょ? 当日のお楽しみにしてね。本当に、すごいからw」
ススムは、彼らは本当に自信があるのだと思った。そして、こうも思った。
(本当に、よく成長してくれたな♪)
(体育祭当日の録画したビデオがあれば、いいのにと思います。あなたにも、お見せしたかったw)
あの一糸乱れぬ演舞は、本当に、我がクラスと言えども、ひいき目に見ても、凄ったです!
私の目には、今もしっかりと焼き付いています^^)
体育祭の昼休みが来た。いよいよ、プログラムは、応援団演舞になった。
白組(1組)から応援団演舞は、スタートしていった。やはり、どの組も相当練習してきており、素晴らしい演舞を各組披露していった。
最後に赤組(6組)の順番が来た。
BGMが流れ出した。
その音に合わせ、
3列縦隊の紅組応援団が
校庭の中央に、大きな塊となった
隊列は形を崩すことなく、
少しずつ、歩を進めた。
定位置に来た集団は
その場でゆっくりと、
首、肩、そして、
上半身を順番に動かしながら
大きな波を作った。
その隊列は、その波とともに
前後左右、上下にと
大きく動いた。
その波を止めると、
隊は、左右に走り出した。
均等に分かれた3つのグループが
チアガールズのように
軽快な音楽に合わせて
踊った。
音楽が止むと、
それぞれのグループが、
一人ずつ女子を
担ぎ上げたかと思ったら、
その女子を大きく宙に
投げた。
観客のどよめきの中、
見事に後方にいた男子たちが
受け止めた。
その3つのグループが
また走り出し、
中央に固まった。
こんどは、5列横隊を作り、
5段のひな壇の形になった。
そして、
彼らは一斉に、
自分たちがどれだけ
素晴らしいのか、
自分たちは、
最高の青春を送っている、
最高の仲間たちに出会えた、
という内容の言葉を
大声で叫んだ。
そして、
「赤組最高!
赤組バンザイ!
赤組優勝するぞ!」
そんな言葉を一定のリズムに乗せて
連呼した。
その連呼の間は、赤色のボンボンを
赤色の手袋をはめた手に持ち、
手旗信号のように
一斉に動かした。
そして、最後に
赤の手袋で文字を作った。
We’re No.1
と。
こうして、
赤組の応援団演舞のは
終わった。
気になる審査結果…。
もうあなたは、予想が付いているかもしれませんよね、、、、、
そうです!
優勝!!!!!!!!!!!!!!!!!
やりました!
やってくれました!!
我が愛しの生徒たち!!!!!
(一番前の中央で表彰状を持っているのが私ススムです♪)
こうして、ススムのクラスは、一つ目標を達成することが出来たのだ。
3年6組最後の行事、文化祭で賞を取るために、クラス演劇で何を演目にすべきか。
ススムは、高校教師として、6回、クラス担任になっている。もちろん、どのクラスも、ススムにとっては、良いクラスばかりだった。また、担任のクラスではなかったが、楽しい思い出を、その時その時に出会った生徒たちから、たくさんの感動をもらっていた。
過去の良きい出:
♥①新人教師として、拙い授業から生徒を楽しませる授業へと、進化した時に、自分の妹の話をして、生徒たちを感動させる。👉第1話♥②自分が立ち上げたサッカー部が、初心者の多い中、部員もなかなか集まらず、練習も思うようにいかなかった。しかし、ある大会で、勝利を繰り返し、奇跡の3位をつかみ取る。♥👉第5話
♥③4校目に赴任した進学校では、台風で中止になった後夜祭の代わりに、生徒たちが学校に内緒で行なったイベントで、ただ一人教師として参加したススムは、200名を超える生徒たちから歓迎され、ステージで、感動の弾き語りを演奏するのである。👉第6話
でも、この6組は、ススムにとっては、大きな出来事の中にいたクラスだったので、特別な感情を持ってしまうのであった。
(それまでのクラスに比べて、最初の印象が良くないクラスであったし、出来の悪い子ほど可愛くなってしまう、そんな心情も働きました。
それに、やはり、最愛の母が亡くなった時期の担任だったので、その辛い時期を乗り越えることを、手助けしてくれたような気がしました。それ故、余計に印象が強かったのです。
肉親を亡くすって、辛いですよね。
だからこそ、そんなときに、そばにいてくれた彼らの存在は、ありがたかったのです。)
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一年間の学校行事も、文化祭を残すところとなった。どのクラスも、総合優勝の大賞を虎視眈々と
狙い、熱心に準備をしていた。
(そんな様子を見るたびに、ススムは、自分が企画した『総合優勝』が、花開いていることに、喜びを感じ、一人、ほくそ笑むのであったw)
ススムのクラスは、今、6組の教室で、ホームルームをやっていた。議題は、文化祭のクラス演劇で
何をやるか、だった。
彼らは、これまでに見たことのない熱心さで、議論していた。正直、白熱しすぎて、ススムは、心配した。でも、もちろん、決めるのは、彼らであり、担任が立ち入ることは、あってはならない。
生徒たちの意志を尊重し、生徒自らが、決め、実行することを、傍で見守ることが、教師として、大事なスタンスである。
もちろん、彼らが困って、手を差し伸べて来たときは、話は別だが。
黙って、その議論の様子を、見ていたススムは教室を出た。
(生徒に任せよう、そうススムは思ったのである。)
6組の話し合いは、難航していた。ホームルームの1時間を、とっくに過ぎていた。
やむを得ず、放課後に延長して、彼らは、話し合いを続けた。ススムは、廊下から教室の声に、耳をそばだてた。どうやら、2つの演目で意見が大きくクラスを、二分しているようだった。
生徒たちは、かなりヒートアップしていた。声が廊下にまで、聞こえてきた。
「だって、そっちじゃ、つまらないし、受けないよ!」
「そんなことないって!実際の劇を見たことが、あるのかよ!」
「ないけど、台本見れば、わかるよ!」
「いや、そんなことはない!」
こんな意見が飛び交う中、
「まあまあ、ちょっと、落ち着こうよ。ねえ、こうしないかい?
みんなで、一度、劇団のビデオを見てみようよ。それで、どちらいいが、多数決を取って、決めよう。」
と、議長の堀田の冷静な声が、聞こえてきた。
すると、その扉の前に立って、聞き耳を立てていたススムの前で、いきなり扉が勢いよく開いた。
危うく、ススムは、堀田と鉢わせになるところだった。
「わあ、先生!びっくりした!先生、ここで何やっているんですか?
いや、そんなことをより、先生、視聴覚室借りられますか?みんなで、ビデオ見たいんです。」
そう来ると、ススムは読んでいた。任せておけと思った。
「大丈夫だよ。で、いつ見るんだい?明日の放課後?放課後は、文化祭実行委員会が、使うことになっていると思うよ。」
「先生、やっぱり、ここは一つ、担任の力で、なんとかならないですか?」
いや、そう言われても、と思ったが、ススムが、言葉にしたことは、
「わかった、じゃあ、明日の僕の英語の授業をホームルームにしよう。そうすれば、視聴覚室は、難なく使えるから。」
ススムは、つい言ってしまった。授業を勝手にホームルームにしてしまうなんて、本当はやってはいけないことなのに…。
(でも、私は、ずっと20年以上、こんな風に、生徒のためならと、むちゃくちゃなことをし続けきたのです。
実際、先生たちには、あまりにも私が好き勝手にやっていたので、あきれていました。w
でも、これが、私の教師としての生きる道なのです。)
翌日、6組の生徒たちは、視聴覚室に集まった。
2つの演目『裏切り御免』、『風を継ぐ者』をそれぞれ、ビデオで見た。
(裏切り御免:慶応二年一月、薩長同盟を成し遂げた坂本龍馬が、伏見の寺子屋で襲われた。痛手を受けた竜馬は、間一髪で逃げ出した。そこを偶然通りかかった、新選組隊士・立川迅助が竜馬と知らず、傷の手当をする。二人は、その後、思いがけない形で再会する。敵対する立場の二人の葛藤劇。
風を継ぐ者:幕末の時代に展開する二人の若者の群像劇。学問も剣術も何もダメだったが、唯一走ることだけは、誰にも立川迅助は、新選組に入隊する。そこで出会った小金井兵庫と共に戦乱に巻き込まれていく。)
案の定、1時間では全部見るのは、無理だった。なので、ススムは、生徒たちに泣きつかれ、1週間、英語の授業をすべて、ホームルームに替えた。
翌週、6組は、ビデオを見終えると、さっそく、投票を行なった。
多数決で、『裏切り御免』に決まった。
(『裏切り御免』は、登場人物に坂本龍馬が登場し、派手な立ち回りがある劇である。なので、華やかさがある。)
ところが、視聴覚室の中の空気が、おかしかった。多数決で決まったものの、それに異議を唱えた生徒がいたからである。
それは、舞台監督担当のヨシエだった。(彼女は、演劇に大変詳しく、将来、演劇を仕事にしたいと、考えていた。)
(実際に、その後、彼女は、演劇で、有名な大学に入学しました。)
ヨシエは、熱くなって、みんなに訴えていた。
(こんな熱くなるヨシエを見るのも、ススムは初めてで、私は一人感動していました。)
「たしかに、ビデオでは、『裏切り御免』の方が、おもろしく見えたけど、私は、反対だな。
なぜって、この「立川迅助シリーズ」三部作になっていて、裏切り御免が、第2作なので、より面白くしようと、脚本が作れているのは確かよ。
だけどね、演劇作品って、第1作がオリジナルだから、ちょっと荒削りでも、奇をてらってないから、作品が本来持つ味があるの。わかるかな? 映画でもそうでしょ。例えば、『ロッキー』が一番良かったのって、第何作目? そう第1作目でしょ!」
クラスの他の生徒たちみんなが、なるほどという顔をしてヨシエの話を聞いていた。
それに、みんながやるなら、絶対に『風を継ぐ者』の方が絶対に合っている。だって、そうでしょ。
主人公の立川迅助って、私達そのものじゃない。不器用だけど、一生懸命生きている姿って、まるっきり、私達じゃない? その姿をスレートにわかるのは、やっぱり『風を継ぐ者』の方だよ。」
6組の生徒たちは、ヨシエの気持ちに、動かされた。彼らは、ヨシエの意見に同意した。
こうして、6組は、『風を継ぐ者』を演目に、総意で選んだ。
(先程も触れましたが、『風を継ぐ者』は、新選組の話です。あなたもご存知のように、新選組の志士たちは、同じ目的をもって、同志として集まり、江戸幕府のために、京都で見廻組を買って出た者たちです。
もちろん、その思いを果たすことなく、みな散っていくのですが、同じ思いをもって集まり、一つの目的のために全力を尽くす、それが6組とぴったりだったのです。)
★演劇集団キャラメルボックスの『風を継ぐ者』の映像です👇
(クリックすると、音声が流れますので、お気を付けください。)
クラス演劇『風を継ぐ者』は大成功に終わる! そして、ススムのクラスは、最高のハッピーエンドを迎える!
こうして、6組のクラス演劇の稽古が始まった。
ただ、文化祭の準備は、体育祭の準備とかぶっていたので、彼らは、ハードな日々を送ることになった。
(体育祭と文化祭の日程は、10日しか離れていないのです。)
また、受験生として、予備校に通い、受験勉強をしながら、文化祭、体育祭と同時並行での準備を行なったのである。
(驚異ですよね。高校生って、すごいんですよ。その気になったら、ものすごいパワーを発揮します。
何度でも言いますが、そんな高校生たちに出会えて、私は、超ラッキーです^^)
9月のある日の放課後、ススムは、職員室で待機していた。その日は、舞台監督担当のヨシエから、今日は、ラフな稽古を通しでやるので、ススムにも見てほしいというのだ。
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ススムは、ヨシエに案内され、予め稽古用に借りていた会議室に、連れて来られた。
「先生は、ここに座ってください。」
ヨシエにそう言われて、会議室の後方の真ん中に、ぽつりと一つだけ、用意された椅子に座った。
なんだか、先生の立場を忘れて、観客の一人になった気分だった。というか、観客はススムの一人だけだったがw
彼らは、通し稽古とはいえ、まず、いの一番に、担任のススムに、見てもらいたいと考えたのである。
(スミマセン、そろそろ、涙腺がまた緩んできましたw)
ススムの目の前には、舞台も何もない、すべての机と椅子が、後方に寄せられて出来た空間があるだけだった。
「では、始めますね。」
ヨシエが落ち着いた声で言い、右手を挙げて、合図した。
音響係の清水が、会議室入り口のそばに並べた長テーブルの横に、立っていた。
その上には、テープデッキがあり、そのスイッチを、清水が緊張しながら押した。
(清水は、本当に超真面目な青年である。というか、生真面目過ぎて、応用が効かないタイプ。将来は、公務員がぴったりな感じ。
ススムは、彼も予備校に行かず、こうして、裏方をやっているんだと思うと、感激せずにはいられなかった。
まだ通し稽古の段階なのに、ススムは、最後まで冷静に見る自信はなかった。)
デッキから、夏の音(セミの声)が流れた。
二人の男が、出てきた。会話が始まった…。
「小金井さん。読んでも返事がないけえ、勝手に上がらせてもらいましたよ。」(剣作役の服部)
「構わん構わん。悪かったな、いきなり呼びつけて。」(小金井役の遠藤)
(服部と、遠藤だ!この二人が、人前で演技が出来るのか?
ススムは、二人が大きな声で話したところを、見たことがない。照れ屋で、内気なサッカーにしか興味のない二人なのに。)
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「何です。迅助さんはなんちゅうたんです。」(剣作役の服部)
「走り続けたって。」(兵庫役の高橋)
およそ、2時間が経っていた。通しの舞台稽古は、終わった。ススムには、あっという間の2時間だった。
途中、何度も、ススムは目を拭った。
(これが高校生がやる演劇?これが、我がクラスの生徒たちが、やっている演劇?)
あまりにも、素晴らしくて、ススムは、ただただ、感激していたのだ。
舞台監督のヨシエが、ニコニコしながら、訊いた。
「先生、どうでしたか?」
ススムは、感動しすぎて、嗚咽で声が出なかった。
(このときの感想は、私が実際に、当時の文化祭でお客さんに配ったパンフレットに、書いたものがあるので、それをご覧ください。)
この文化祭用、プログラムの1ページに載せたように
「生徒たちの隠れた才能に驚き、これだけの演劇が出るのであれば、高校生最後の大きな思い出になる。」
そう、ススムは思ったのである。
パンフレット担当の水島が、丹精込めて作ったパンフレットそのものが、残っているので、載せますね。
これをご覧になれば、あなたもよりリアル感を持って頂けるのではないでしょうか^^
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こうして、ススムのクラスは、文化祭当日を迎えた。
2日間の文化祭の間、6組の演劇会場では、感動の嵐が起こっていた。
(一日、3公演でした。)
そう、演劇を見てくれたお客さんたちは、その凄さに感激し、涙を流してくれたのである。
毎回、大入り満員だった。そして、クラス演劇『風を継ぐ者』は終演を迎えた。
お客さんたちを、出口で送り出しながら、6組の生徒たちはみな泣いていた。
見てくれたお客さんたちに、喜びと感謝の言葉を、もらったからだ。
ただ、6組の生徒たちは、すべてのお客さんが出た後、感動の余韻に浸ることは、出来なかった。後片付けが待っていたからである。
(文化祭が終わると、学校全体を、完全に元の状態に戻す必要があります。生徒たち全員と職員全員で、大掃除大会が始まるのです。
これだけも、本当に大変な肉体労働です。
誰かに任せるのではなく、すべてのことを自分たちだけでやるのって、どれだけ大変なことか。
演じた者たちが今度は、清掃員になるようなものです。2日間の文化祭で、クタクタなのに、、、
学校って、本当に色んな仕事があって、大変なんですw)
ようやく、後片付けが終わった。学校は何もなかったかのように、いつもの校舎に戻った。
外は、いつの間にか、暗闇に包まれていた。
ススムは、6組の生徒たちと、校庭へと急いだ。後夜祭に参加するためであった。そこで、いよいよ、賞の発表がある。
彼らはみな、晴れやかな気持ちで、後夜祭のキャンプファイヤーの大きな火を眺めていた。
(因みに、キャンプファイヤーを行う中で、賞を発表することを考えたのも、以前文化祭担当だったススムである。)
他のクラスの生徒達も同じように、クラスで塊を作り、静かに発表を待っていた。
校庭の端に置かれた演台に、文化祭審査委員長が上がった。
委員長の声がマイクを通して、校庭に響いた。
「それでは、文化祭部門の発表をします。まず、第3位は、、、3年3組!続いて、第2位は、、、3年5組!」
発表されたクラスは、それぞれに喜びの歓声を、上げていた。
まだ、3年6組は、呼ばれていなかった。
6組の生徒たちは、みんなで、手をつないで最後の一声を待った。
「文化祭最優秀賞は、、、
3年6組です!」
「ウオー! ヤッター!」
言葉にならない叫び声を、我らが6組の生徒たちが上げた。
そのそばで、ススムはもう我慢できなかった。人目も憚らず、声を出して泣いた。
(ススムは、何回泣けばいいのでしょうw)
生徒たちも同様だった。その愛すべき生徒たちに向かって、ススムは、大きな声で言った。
「みんなに出会えて良かった!」
こうして、最高のハッピーエンドを、ススムは、6組の生徒たちと迎えたのである。
(因みに、総合順位は3位でした。
さて、最高の夜を迎えた6組の文化祭の打ち上げは、どこでやったと思いますか?
なんと、私のマンションの3LDKの自宅です。そこに、6組のほぼ全員が集まり、1泊したのです。
もう大変でした。足の踏み場のない状態になり、私は、居場所がなく、キッチンの一番の奥にある椅子に座っていました。
でも、生徒たちが楽しそうにしている様子を見て
私は、本当に幸せでした^^)
(文化祭でお客さんたちに配布したパンフレットの抜粋です♪一番手前真ん中に座っているが私です^^)
ススムは、こんな幸せな日を迎えることが出来て、心の底から、喜んだ。
そして、そっと、両手を胸の前で合わせ、他界した母を思いながら、呟いた。
「母さん、力を貸してくれて、
ありがとう!」
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・
この3年6組の話を読まれて、あなたは、どんな感想を持たれましたか?
私から、お伝えしたいことは、このクラスについては、3年生になってから、私は、担任として、ほとんど手を貸していません。
彼らは、見事に自分たちの力で、体育祭、文化祭と大きな成果を成し遂げました。
その要因は、なんだと思われますか?
生徒は、大きな愛で、見守れていると、そして、自分たちの行動が支持されていると、感じた時、
まさに、自らの力だけで、物事を行えるようになるのです。
確かに、うまく行っていない時は、私も不安はありました。
でも、彼らを信じ抜いたのです。そして、一生懸命、教師として、愛情を彼らに注ぎました。
つまり、彼らは、私の心をわかってくれていたのです。だからこそ、彼らは、自分たちの目標に、向かって全力で、一致団結して、頑張ってくれたのです。
それでも、繰り返しになりますが、彼らに出会えたことは、大きな喜びです。
そして、こうして、私は自分が理想とする教師になれたのだと、思います。
第一部、高校教師のストーリーとしての結びをお話します。
さて、ススムの高校教師時代の話は、ここで幕を下ろそうと思います。
でも、最後に、せっかくですので、この第一部の結びとして、お話をさせて頂きます。
高校教師になって、25年以上が経ち、このストーリーにあるように、ススムは、大きく成長しました。
また、一人前の教師というより、かなりの力のある教師になったと、自負しています。
テレビドラマの『金八先生』や『GTO』に登場する先生は、確かに生徒思いで、生徒たちのために、力を尽くす素晴らしい先生だと、思います。
でも、そこに登場する先生は、架空の先生です。ストーリーは、フィクションです。
私ススムのストーリーは、ノンフィクションです。
(あなたは、このストーリーを読まれて、どう思われましたか?
こんな話が実際にあるとは、驚かれているかもしれませんね。でも、すべて実話です。)
このストーリーにあるように、私は、生徒たちのために、全身全霊で、尽力しました。生徒のためなら、何でもやるのだという覚悟を持って、毎日を過ごしました。
言ってみれば、命を削ってもいいという思いを、持っていました。何度も、過労で倒れました。それでも、私は、満足していました。
自慢させてください。私ススムは、本当に優秀な高校教師でした。だから、数え切れないほどの生徒たちに慕われ、感謝されています。
そんなススム先生を、こうして、ストーリーで、自ら振り返る機会を得ることが出来て、今、とても嬉しく思っています。
最後に、もう一つ自慢の私の宝物を、あなたにお見せしますね。^^
ここに載せた色紙や手紙は、私がこれまでに、担任を担当したクラス、或いは、英語を教えていたクラス、生徒、サッカー部などから、もらったものです。^^
この他にも、個人的に、感謝の手紙を、たくさんもらっています。
私が出会った生徒の数は、およそ4000人を超えていると、思います。
そのすべての生徒たちに、感謝したいと思います。
生徒たちとの触れ合いを通して、私は、この高校教師の仕事が、天職であると知り、さらに、生きることの喜びを、そして、素晴らしさを知ることが出来ました。
とても幸せだったと、強く思います。
人生とは何か、生きるとは何かを教えてもらった教師生活でした。
私にとっての生きる道は、教師として、生徒たちのために、力を尽くすこことだ悟ったのです。そして、生徒たちのために生きることで、自分が生かされるのだ、それが私の人生なんだと。
最高の教師生活でした。
(読んで頂いたあなたが、少しでも、なるほど、だから、教師生活を誇れるんだと、思ってもらえたら、とても嬉しいです。)
さらに言えば、25年以上、一つの仕事に打ち込んでいく中で、なかなか自分を肯定することが、出来なかった私でしたが、たくさんの人、保護者の方や生徒たちに評価を頂き、一個の人間として、自信を持てるようになりました。
(一つのことを、仕事でも何でも、途中でやめないで続けること、それは、やっぱり大変ですよね。山あり谷ありですし、脇道にそれて、違うことをしたくなったり、誘惑に負けそうになったり、
正直、私の教師生活がすべて順風満帆だった訳ではありません。
嫌な上司がいたり、職場で孤立したり、なかなか、生徒に自分の考えを、理解してもらえなかったり、、、
でも、これと決めたらのなら、人生かけて、頑張ってもいいのではないのでしょうか。
あなたが、もし道に迷っていたら、参考にしてみてください。
諦めず、続けることそれは、必ず光をもらたらしてくれます。
私は、そう信じています。)
正直言って、GTSなんていう、あだ名はなかなか、もらえませんよね。^^
改めて、思うことは、たくさんの失敗を重ねながらも、よくここまで成長できたなと、自分を褒めて上げたいと思います。
(ぜひ、私ススムのプロフィールをまだ読まれていないのであれば、、お時間作って、読んでください。)
・
・
・
さて、第2部は、打って変わって、私ススムのプライベートのお話です。もっとストレートに言いますね。恋愛話です。^^
お楽しみに♪
つづく
次(第2部 第9話)へ
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