第六話:人間不信に至った残念な体験ー前の先輩・上司から裏切り者扱い

こんにちは。

オトメと申します。☺

今このページに辿り着いているあなたへ、貴重なお時間を割いていただき大変感謝しております。

プロフィールを読まれた方でもそうでない方でも、きっとこのサイトの何かにご興味を持たれてお越しくださったのだと信じております。

このページは、ここ最近の数年のオトメのフロンティア人生を連載ストーリー化した第六話が掲載されています。

第五話にて、オトメがどんな同僚からの搾取行為にさらされたのか、という話をしました。外国人としてのアジア系マイノリティの女性がアメリカ社会においてどれだけナメられていたのか、またもやエゲツないアメリカ社会の現実を見せつけられた経験となりました。

しかし、今からお話しする第六話においては、都合よく事実をひん曲げられ、前の先輩や上司から完全に裏切り者扱いされてしまった、というアメリカ人の「本気」のご都合主義の犠牲になった経験をお話ししたいと思います。

あらすじ:転職先で私オトメを雇っていた二つの組織は実は犬猿の仲(けんえんのなか:超仲悪い)だったのです。その組織間のいがみ合いの犠牲となってしまったオトメが受けた先輩からの扱いについてお話しします。
そんな中でも必死に自分の中に少しだけ残っていた自尊心を振りかざし、なんとかその場を切り抜けるも、やはり私オトメを排除しようとする組織レベルにおけるイジメは中々結果を出すことのできない私に辛く当たってきます。
そんな逆境の中で、いきなり授与された億単位の国家研究費ですが、今度はそれをめぐって今の研究所へ転職しようとする私オトメに対する裏切り者扱いが始まります。それでは第六話をどうぞお楽しみください!

 

私オトメを排除することに専念する輩たち

億単位の研究費が授与される直前、私オトメはかなりのプレッシャーの中で苦しんでおりました(詳しくは第二話参照)。

同僚からの抑圧的で馬鹿にし切った私への扱い、事務から研究活動に対する制限(詳しくは第四話参照)、など研究者として雇われたにもかかわらず、なかなか結果につながらず、その信用は地に落ちるばかり。

 

当時の雇用先の州はサイズも小さく、大都市の近くにあるわりに保守的な場所でしたが、私を雇用していたのは州の中でも医学分野において権威的である組織二つでした。

後から知ったのですが、私や他数人をこの二つの組織が共同で雇用していたにもかかわらず、

 

この二つの組織は実は犬猿の仲(けんえんのなか:超仲悪い)

 

だったのです。

一つの組織は学問的な要素が強く、もう一つの組織は現場医療的な要素が強かったため、同僚達との研究費がいくつか授与されたときに、どちらの組織へその研究費を流すか、ということをめぐって問題が起きました。

どちらかの組織に流そうとすれば、もう片方が文句を言い、自分の雇用の立場を不利にするような脅迫じみたことを言い始めるのです。

例えば、

 

「そちらの組織に研究費を回すんだったら、何のために自分たちはお前を雇っているんだ。」

「自分たちを何だと思ってるんだ。」

「もう片方の組織と手を組んで何を企んでいるんだ。」

 

みたいな内容の発言が直接的に間接的に繰り返されていたと思います。

二つの組織に同時に雇用されたのは、これが初めてでしたが、ここで私オトメが痛い経験を通じて学んだことは、

研究職に限らず、自分にとってどこが主要な雇用先であるか、をしっかり自覚していること、は非常に重要である、ということです。

例えるならば、周りにいる異性の誰が友達で誰が本命なのかしっかり自覚しているのと似たような状態なのだと思います。

日本のことわざでも、二兎追うものは一兎も得ず、なんてよく言いますよね。英語でもこういった状況を、If you run after two hares, you will catch neither. なんて似たような感じで表現するらしいですよ。

別に自分の仕事の全てを一つの雇用先に集中させる必要もないとは思いますが、どこかの組織と提携したり、属する場合には、そういった優先順位をはっきりさせておくと、お互いに必要以上の期待もせずに円滑な関係を築けると思います。

実際に今現在、私オトメの状況はまさにそういった意味では理想の形態といえそうです。

具体的に言えば、その後に所属することになった研究所、今も所属している研究所ですが、ここが私オトメの本命の仕事場となります。

私オトメの財源の約70%がここから確保されているわけですっていっても、この財源自体、オトメが稼いできた研究費から支払われているんですけどね。

大まかの財源というだけでなく、この研究所は世界的にも信用の高い研究所であり、やる気満ち溢れる優秀な研究者たちが数多く集まっていることで知られています。

私オトメも億単位の研究費が稼げなかったら、この研究所に来ることは無理でした。そして、この研究所にオトメを連れてきてくれた今のボスが、ここでは仮にポピンズ女史としましょう、私の分野における世界的な女性リーダーとして私のモデルとなってくれています。

つまり、財政的にもキャリア的にもこの研究所は私の本命の場所なんです。

そして残りの財源のいくらかは、仲間内のIT会社のコンサル、大学や他の研究者からの要請によってまかなわれています。

さらに2020年に入ってから、ラインコミュニティやネットワークビジネスを通じて日本の方たちと繋がり、残りの財源をもまかなうようになりました。

 

話は戻りますが、犬猿の仲である、私を雇用する二つの組織に挟まれ、ついには完全なる誤解から、大変な事態を巻き起こすに至りました。

私オトメがこの研究職に就く以前に所属していた研究所において、駆け出しの研究者達はどのように国家研究費を獲得するか、のプロセスとスキルを徹底的に仕込まれました。

そのプロセスの一つとして、政府の担当者と直接連絡を取り合って情報交換をする、ということがあります。

 

中立の立場において科学的追究をうたう研究者どもではありますが、

 

  • 政府が何を求めているのか、
  • どんな方向性で研究を進めていけば効果的か、
  • そして何よりもどうすれば研究費が降りやすくなるか、

 

担当者の役人の方と親交を深め、自分たちのことを知ってもらい、その研究課題にかける情熱を理解してもらい、方向性を示唆(しさ)していただく、といったように

結局何をするにしても人間が絡むので、コミュニケーションをしっかりとって、信頼関係を徐々に築いていく、そうやって役人の方からの支持を受ける、

 

前線で活躍されている研究者の方たちは、

 

こういった嫌みのない政治力も味方につけ

独自のネットワークを築いている

 

のです。

 

そこでいろいろと学んだ私オトメも当然のことながら、ある国家研究費申し込みの際に、正しい情報を得ようと政府の担当役人の方に直接連絡を取ったことがあります。

ところが、この場合に関しては、私を雇用している組織の一つが間に入っていた、ということが関係し、私オトメが直接政府の方と連絡を取ったことが知られたときに、大問題となってしまったのです。

自分としては教えられたとおりのことをしたまでですが、犬猿の仲である二つの組織から半分半分雇われていたために、自分の行動は間に入っていた組織からすると、

その組織の裏をかいて、私オトメおよびもう一つの組織にとって有利な結果を生み出そうという、

 

謀反(むほん)行為(裏切り)

 

と見えたようなのです。

 

少し経ってから、間に入っていた組織の責任者から(ここでは仮に鬼舞辻無惨としましょう)、会って話をしないか、という申し込みが舞い込んできました。

私としては何も悪いことをしていたつもりはないので、直接会って説明をするのは誤解を解くにあたっていい機会だろうと承諾しました。

会議が行われるはずの建物に足を踏み入れ、時間通りに言われた小さめの会議室へと足を運びました。

会議室に入ると、何やら神妙な顔をしたアシスタントらしき人物二人と鬼舞辻無惨を前に席に座り、丸いテーブルを囲んでの会話となりました。

軽く社交辞令な会話をして本題に入り、催促された通り、物事の過程を順序だてて話しだした途端、鬼舞辻無惨の口調がいきなりガラリと変わり、

「どうしてあんたは我々の裏をかいて直接役人に連絡して文書を提出したんだよ。」

最初から謀反者扱いが始まったのです!

※上の写真、実際の鬼舞辻無惨はもう引退してしまったくらいのもっと年配の方でしたが、勢いとしては本当にこんな感じだったのです💦

 

実はその役人に直接連絡を取る以上に、提出文書を実は間に入っていた組織の方に提出しなければならなかったようなのです。

 

それを指示するメイルだか文書だかの内容が非常にわかりにくく、もう片方の組織の同僚に相談したのを覚えています。

間に組織が入り込んでいるうえに、周辺の地域の他の組織ともコラボしている状態だったので、一体どの人間に連絡を取って確認したらいいのかもはっきりしない状態でした。

といった過程と己の受けたトレーニングを基にとった行動だったのですが、大きな間違いだったようです。

 

「いえ、実は共同研究者の方に相談した結果、直接連絡して提出するようだ、という判断に至りまして…」

と説明すればするほど、

鬼舞辻無惨「お前というやつは人のせいにするのか。てめえがこのプロジェクトの責任者だろ?!

と相手の口調も声も荒くなるばかり。

道理で同席している人たちの顔が神妙だったわけです。私オトメもあまりの鬼舞辻無惨の突然の変貌ぶりに唖然としてしまい、同時に背筋が一気に凍りつくのを感じました。

とりあえず固く両手を目の前で握りしめただただ平静を保とうと目の前の空間を凝視し続けていました。

とにかくこういった場で声が震えたり、怯えた表情をしたり、自分の話している英語が乱れたりすれば、自分の非を認めることにもなりかねないわけです。

突然訪れた修羅場においても、いつもの”気合とハッタリと多少の知恵”を反射的に起動させなんとかその場を乗り切ることに集中していました。

 

が、しかしあまりに予想外の突然の事態において会議の最後の方では自分が何を言っているのかすら覚えていない状態でした。

 

ただ一つだけ覚えているのは、鬼舞辻無惨が「人のせいにするなんて最低だ。」と言いつつ、最後の方で

「で、その相談したヤツって誰だよ?」

と言及してきたことです。

 

「おいおい~、なんだお前も結局は野次馬根性丸出しにしてんじゃん(心の声)」

完全な誤解であるにもかかわらず、尊厳も何もへったくれもない、一方的な会話に打ちひしがれていた私は、同時に鬼舞辻無惨の発言に対して呆れ、少しだけ残っていた自尊心を振りかざして、

「あなたは先ほど、“人のせいにする奴は最低だ”っておっしゃっていましたよね?

ならば、自分とその相談者である方の名誉にかけても、絶対にその方の名前をそちらに横流しにするわけにはいきません。」

と言い切ったのだけは覚えています。

 

「うむ、まあ、そうだな。」

そんな返事が返ってきたと思います。

あまりのひどい状態に気が動転し、時系列的にはっきり覚えていないのですが、もう一つこのことに関連して嫌なことがありました。

 

所属している組織の一つの研究事務の白人女性ボスに操られている黒人女性(ここでは仮にお局さんとしましょう)の取った行動です。

お局さんとは億単位の国家研究費が降りる寸前にてしなければならなかった事務的な手続きに全くといって協力しないばかりか、私が必死に手続きを前に進めようとする言動が「組織の輪を乱す自分勝手な行為」という訳のわからないイチャモンをつけて私のボスにチクった相手です(詳しくは第四話参照)。

どうも鬼舞辻無惨はこの組織においてはそうとう幅を利かせていたようで、鬼舞辻無惨を怒らせてしまった、この事件は私を果てしなくうっとうしがっていた事務からするとなんとも好都合な出来事だったようです。

一応、形だけは私を雇っている上司に頼まれて、私の研究の事務的指導をするように、と頼まれていたからだと思いますが、

鬼舞辻無惨とのひどい会議のあとに、直接お局さんの方に事実釈明をしに行きました。

お局さんは、私と直接話をしている最中においては、割とフレンドリーに接して話を聞いてくれていました。

 

が、その後さらに事実釈明のための会議をその組織において私を雇っている上司と行ったときのことです。

 

私の事実釈明の時に見せていたお局さんの理解ある行動とは裏腹に、

私のとった行動は謀反行為以外なにものでもない、

 

鬼舞辻無惨の解釈を裏付ける内容のメイルを、実は私が自分の上司と会議をする前に、自分の上司に送り付けていたんです!

 

そのメイルの内容を、自分のボスとの会議中にボスの口から聞かされて、私はあまりに理不尽で自分の事実釈明行動が全く報われない状態にガックリとしてしまい、

なんと絶対に仕事関係において今までどんなに大変な状況に追い込まれても涙一つ流さなかったこの私オトメが、

 

ガックリと肩を落とした状態で、いきなり自分のボスの前で下を向いてハラハラと涙をこぼしてしまったのです。

 

しかしながら、今まではどうしてどんなにチャレンジングな状況に置かれても感情的に反応することがなかったでしょう。

今になって察するに、今までのチャレンジングな状況というのは、自分が何をどうしたら良いのか、わりとはっきりしていたと思うのです。

だから、どんなに大変な状況に置かれても、いじめられたり、パワハラを受けたりしても、それでも気合とハッタリと多少の知恵で乗り切ることができたんだと思います。

 

しかし、必死に自分のできることをし続けても全く効果がなく、それどころか完全に自分の行動がシカトされ続け、私の事実釈明の行動とは無関係に、上層部による

 

私をいかに排除するか

 

という計画が勝手に進行していく様を見て、無力感でいっぱいになったのだと思います。

 

さすがに自分のボスもその様子を見て何かを感じたようで、

「あなたがそんな謀反行為をするようには見えないわ。実はあなたを雇う二つの組織が犬猿の仲なのよ。だからきっとあなたの件もそれを象徴してしまったんだと思うわ。」

と慰めてくれたのです。

しかしそれと同時に、彼女から厳しい言葉が発せられました。

「なかなか研究結果が出ないのは、必ずしもあなたのせいではないと思うけど…そろそろ、次の転職先を探したほうがいいかもね。」

やはり自分の給料を国家研究費でまかなう、とまでいかなくても、研究結果が思うように出せない場合、結局は解雇への道が開けるのです。

 

一体私のこれからの半生はこういった不安と、不安定な研究情勢に振り回され続けるのだろうか…

 

目の前が真っ暗になりました。

以前2015年に奇跡の転職を遂げた時とは違い、この時は自分の実力の至らなさをまざまざと見せつけられた気がして、

「一体自分は博士研究員時代から何をやっていたんだろう、研究一本に絞って今まで来たけど結局何の成果にもつながらなかった」

研究者としても、母としても、元妻としてもすべて中途半端になってしまっている自分、そして目の前のアメリカ研究世界のおける厳しーい現実をただ静かに受け止めていたと思います。

そんな会話をしていた当時はちょうど新緑の時期、そろそろ緑でいっぱいになりアメリカ全体は明るく楽しい暑い夏休みを目の前にしていた頃でしたが、

なぜか私の記憶の中ではその当時はセピア色、思い出す景色はなぜか枯葉がはらはらと静かに落ちていく木枯らしの風の吹く秋の様相、となっております(笑)。

なんだか失敗ばかりの半生、中途半端な自分の半生に見切りをつけた、そんな気分だったのではないでしょうか。

そしてこういった理解を見せてくれた二つの組織のうちの片方のこのボスが、億単位の研究費がその直後に授与されたときに、とんでもない行動に出たのです。

 

 アメリカ人上司による本気のご都合主義

この二つの組織の家の片方の上司による、理解ある言動に多少元気づけられ、ずっと居座るつもりであったその研究職からまたしても転職すべく、重い腰を上げて就活を始めました。

自分のやりたい研究を貫きたいのであれば、どういった組織に属しても結局は国家研究費の獲得という、勝率10%程度のギャンブルのような世界でなんとか結果を出さなくてはならないのだ(詳しくは第二話参照)、という自覚と諦めの気持ちでいっぱいだったと思います。

 

実は同じくらいの時期に、私を雇っていたもう一つの組織のボスからも、

「すまない、君が自分で研究費を獲得してくれない限りは、もう君の給料を来年の予算に組み込んでいないんだよ。」

なんていう、爆弾宣言も受けたのです。

「えー、聞いてないよー。またか、また振出しに戻ったか。」

その爆弾発言を受けたその日は、家に帰った途端、ワーワーと赤ん坊のように玄関先で大声で泣き叫んでしまいました(詳しくは第二話参照)。

 

自分が日ごろから懇意にしていた共同研究者たちに次から次へと電話、メイルをよこし、共同研究費としてもらっていた残り年数少ない研究費をかざして転職先の交渉を始めました。

しかしながら、自分の共同研究者たちが管理する研究費の場合、

 

  • 自由がきかない、
  • 自分の実力が反映していない、
  • また残りの年数が少ない、

 

という三点によりなかなか話が前に進みませんでした。

 

億単位の研究費が突如政府の方から授与された後に無事転職することができた今の研究所のボス、ポピンズ女史はそれでも面接だけでも、と機会を作ってくださいました。

彼女の研究所には実はその当時の地元の研究職が決まるあたりに、私からの要求に応じて一度面接を組んでもらい、結局ポピンズ女史の研究所ではなく当時の地元の研究職を選んだのでした。

 

ポピンズ女史の研究所での研究職と当時の研究職のどちらかを選ばなくてはならなくなったとき、私オトメはハッキリ言って食事ものどを通らなくなったものです。

それというのも、彼女の研究所および彼女のキャリア自体は言うことないのですが、かなり気に入っている在住地域から、彼女の研究所の方へ引っ越さなければならず、

自分の心の中では、二つの組織に雇われながらも、地元で、しかも国家研究費の獲得のほうで多少うまくいかなくても安定した研究職が得られる、このことの方が魅力的だったのです。

 

つまり、ポピンズ女史の研究所と彼女のキャリアに憧れながらも、地元の研究職が決まりそうな時点で、彼女の土地へ引っ越す気はさらさらなかったのです。

 

非常に申し訳ない、なんてお調子者のオトメなんでしょう!

 

しかしながら、この年配女性とは学会を通じて10年来の付き合いでして、ポピンズ女史が良かれと思って快く私の要求に応じてアレンジしてくれた面接と実質上のオファーを無下に断ることだけは避けたかったのです。

 

オトメの気合とハッタリと多少の知恵

 

ここでもその出番がやってまいりました。

 

ポピンズ女史はプライドにかけても、先にオファーを出して私にNOの返事をもらうことだけは避けたい、という気持ちがあったらしく、

私の方から彼女の方へ行きたい、というはっきりした返事を聞くまでは、

「どうする?」

という質問を何度か繰り返してきました。

「ポピンズ女史、学会でお話しできませんか。」

電話でなく、対面でお話しできるときに彼女とお話ししようと私オトメは決意しました。

 

ただ…なんて言って自分から面接頼んでおいて偉そうに「お断り」もうしあげたらいいんだろう…

 

全く策はございませんでした。

 

学会に到着し、学会が始まり…ついにポピンズ女史と対面でお話しするときがやってきました。

 

頭の中は真っ白、顔面蒼白状態だったと思います。

 

彼女はその道の研究分野ではやり手の成功者であり、何が何でも彼女を少しでも嫌な気持ちにさせるわけにはいかない、それで関係をおろそかにするわけにはいかないのです。

まず学会の開かれていたホテルのロビーの小さな丸いコーヒーテーブルを囲んで、ルノアールに散らばってそうな丸い背もたれのゆったりしたカフェ用の椅子に座ってポピンズ女史と向かい合いました。

その時も気を付けていたのは、とにかく自分は何も悪いことはしていないのだ、罪悪感を感じる必要はまったくないのである、ポピンズ女史には感謝の気持ちしかない、それをどう言葉で表現するべきか、ということでした。

彼女もあっけらかんと彼女の研究所に行きたーいとすぐに切り出さない私に不穏な空気を感じつつ、でもお互い好意を持っている相手同士であることはわかっているようで、穏やかな様子で目の前にお座りになっています。

ポピンズ女史「で?話って何かしら?」

オトメ「はい!……(しばらくの沈黙)あのですね……(もうちょっとだけ沈黙)実は、あなたに私の給料のサポートをしてもらわなくても……一緒に共同研究ができることになりそうなんです!!」

ポピンズ女史「……(かなり意外な私からの切り出しにちょっと戸惑っている様子)え?どういうことかしら。説明してくれる?」

全く無計画に、口から勝手に出た言葉でした。

 

でも最高の返事を返したと思います。

 

つまり、こういうことです。

研究者が研究をし続けるには、国家研究費を自分で稼ぐほかに、完全に自立するまで多少の間、ポピンズ女史のようなやり手の先輩の研究者に自分の給料のサポートをしてもらうことになります。

しかし、誰かほかの人間や組織が自分の給料のサポートをしてくれるならば、彼女に依存しなくともよい、むしろ遠隔にはなってしまうが、

私の給料の心配などせずにポピンズ女史と彼女のチームと共同研究を進め続けることができる、というポジティブな解釈をしたのです。

 

つまり、お断りはしない、それどころか自分はある意味経済的に自立できそうだから、これでやっと安定した落ち着いた状態で彼女たちと共同研究活動に集中できるのだ、という解釈です。

要するに、地元の研究職に就くことで、自分だけでなくポピンズ女史も含め全ての人間がその恩恵を受けるのだ、というわけです。

彼女は

「ふーむ。なるほど。それはよかったわ。」

と、納得して私の選択を応援してくれました。

 

あとになって結果的にポピンズ女史の研究所に遠隔雇用という形で転職しましたから、この時に胃のよじれるような思いで彼女との良好な関係を維持するための努力をした甲斐がありました。

こういった前線を行くトップレベルの研究者たちというのは、それだけ同僚や後輩または周りの人間達に裏切られたり利用されたりもしてトラウマも大きいです(詳しくは第五話参照)。

それというもの、彼等自身、自分の信念を貫き、純粋な知性と情熱でご自分のキャリアを築き上げてきた方たちばかりです。

その過程において、彼等は周りの人間達に利用され裏切られたりはしたものの、彼等自身がそういった行動に従事してきませんでした。ご自分の実力で文字通り勝負してきた人達です。

 

しかしながら、彼等がトラウマからときに見せる激しい感情や疑惑に満ちた態度を理解してやれるのは少数派で、

逆に、

 

感情的だ

付き合いづらい

やかましい

何を考えているかわからない

結構失敗ばかりする

 

と周りから悪口や批判の対象になってしまうのです。

 

彼等の存在は科学者であることを超えて、

 

生き方そのものが芸術的

 

とも言えます。

 

私は今まで何百人、何千人という世界の人間たち、科学者たちとお付き合いしてきましたが、

自分の所属する科学分野において、

 

  • 私を博士研究員として雇って指導してくれたメンター氏(第五話に登場)
  • 私がパワハラで困り果てていたところを助けて面倒を見てくれたドクター・大臣(第二話に登場)
  • そして今所属する研究所のボスであるポピンズ女史

 

の三人くらいしか芸術的なまでに徹底した生き方を体現された先輩はいません

 

後にわかったことですが、ポピンズ女史に散々このとき迷惑をかけてしまいましたが、最近になって彼女の研究所に転職したとき、彼女は実は面接は二度目であったことを忘れていたのです。

 

二度目の面接を受けに行った時に、彼女が一度目の面接のことをすでにすっかり忘れ去っていたことを知りました。

前夜祭のディナーを彼女の同僚と三人で食べ、ホテルに戻って次の日の面接発表の準備を進めようとしたその矢先でした…私の研究を日ごろから応援してくれていた政府の役人のダイアモンド氏から突如のメイルが舞い込んできたのは(詳しくは第二話参照)!

 

申請し続けていた研究案についに億単位の研究費が授与されるかもしれない!!

 

全くその夜は眠れず、次の発表でも完全にハイな状態で、くだらない冗談など飛ばしながらノリノリでの発表となりました。

 

そうして、なんやかんやでやっと億単位の研究費が授与が決定した瞬間(詳しくは第二話参照)、当時所属していた組織の上司がおかしな行動を取り始めたのです。

まずこちらとしては組織中を駆け巡るようなニュースですが、事務は私という存在を全く無視している状態が続き、同僚からも「おめでとう」の一言もなく

 

なんだか周りの様子が不自然なまでに静かなのです。

 

転職する際にも、研究費を横取りする目当ての先輩同僚達からの強引な働きかけが続き、かなりメンタルが弱っていました(詳しくは第五話参照)。

そしてやっと転職がきまり、

私としては「上司に言われたとおりに、ちゃんと転職先を見つけることができました。今までお世話になりました。」とお知らせしたところ、

最初は「あら、それは良かったわね、今携わっている仕事などはどう片付けていくのかしら。」と事務的な話に集中していたのですが、

 

上司に最後のあいさつにいったときのことです、いきなり謀反者扱いをまたもや今度はこの上司から受けたのです!

 

彼女のオフィスに通され、そこでいきなり切り出しから

「あなた、転職するつもりなんて私全く知らなかったわ。」

と来たのです。

 

「というか、あなたでしょ、転職先探した方がいいって言ったのは…(オトメの心の声)」

 

ポピンズ女史もそうでしたが、どうも仕事に忙殺されているせいか、そういった重要なことを簡単に忘れてしまうようなのです。

 

「いえ、あの、転職先を探せ、ということでしたので、探していたんですよ。」

と申し上げたところ、

「あら、私そんなこと一言も言ってないわよ。」

しれーっとした顔で、まるで私が話をでっち上げたかのような表情で言い返してきました。

言った、言わない、とやりあっても埒(らち)があきませんから、

「あの、私こういうことで言い合っても意味がないと思うのですが。

要するに、転職先の面接をしている最中に億単位の研究費が授与された、ということだけはお伝えしておきます。」

と話をまとめてしまいました。

 

問題児であったはずの私が、一躍「政府の認める一人前の研究者」へと一気に変貌してしまっただけでなく、その研究費を持って転職しよう、というわけです。

「あなたは、実質私たちを利用するだけしまくって、それで研究費がやっと降りたと思ったらそれを持って他の組織に転職しようってわけね?」

なんて、嫌味の一つも言いたくなるわけです。

 

さらに面倒なのは、国家研究費というのはその追加50%以上の金額が所属先の組織へとインフラサポートとして入ります。

したがって、研究者が死ぬ思いで勝ち取った研究費であっても、組織としては研究費を転職先に研究者と一緒に移動しない、と研究費の移動を許可しないことも体裁上、可能と言えば可能なのです。

 

多額の研究費が授与されると同時に転職を考える研究者は実は少なくありません。やはり自分がもっとも売れ時なときに、自分を他の組織に有利に売り込むことを考えるわけです。

その瞬間が、まさに金の卵Golden Childってなわけです。そして年数を追うごとに金が銀となり、銅となり、そしてさび付いた鉄の塊となっていくわけなんですね。

そしてたいていの場合、政府の役人たちはその動機を理解し、出来るだけサポートしてくれますから、組織が抵抗したとしても最終的に研究費の移動は政府によって認可されます

それでも上司と研究事務のお局さんは念を押すように

「わかってないとは思うけど、あなたが転職するからと言ってこの億単位の研究費があなたと一緒に移動するとは限らないのよ。

だってこの研究費は私たちの組織に授与されたんですから。」

とくぎを刺してきました。

 

わかってはいたのですが、それにしても大逆転劇のヒロインとしては、遠くから応援してくれているダイアモンド氏やメンター氏、ドクター・大臣、ポピンズ女史は別として、

 

目の前の仕事相手や研究者たちの誰一人として

 

心から私の大逆転劇を祝福せず、それどころかむしろ悪者扱いをする事態

 

を目前にし、

 

長く暗いトンネルの先に一瞬見えた光は、瞬く間にこういった扱いにより踏みにじられ、私オトメは完全に生きる喜び、希望、そして方向性を見失ってしまったのです。

それでは、オトメがどん底の精神状態へと追いやられていく様を第七話にてお話ししますね。

 

 

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コメント

  1. […] 第六話にて、オトメが謀反行為の疑いを一方的にかけられた話をしました。やはり、長年かけて築き上げてきたネットワークや信頼関係のない、全く新しいそして保守的な環境においては、何かあった時に真っ先に矛先を向けられるのは、やはり異邦人である私オトメだったわけです。 […]

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